
連載企画 総合的品質管理(TQM)と改善(3)
はじめに
令和6年度の会報委員としての筆者の記事が2024年8月と10月に配信されています。引き続き、総合的品質管理(TQM)を論じます。念のため、TQMは、カイゼンを包含しているとご理解ください。つまりTQMは、トップダウン活動とボトムアップ活動(カイゼン)の両輪で成り立っています。第1回目配信記事の<図1-3>をご覧ください。
方針管理の構造
方針管理が一目でわかるように、2000年当時、筆者が海外での講座、セミナー用に作成したPPT教材から<図3-1>を抜粋用意しました。「方針」は二つの視点に立ち、中長期の方向付け(中長期計画)も方針の範疇に入ります。もう一つは、前回取り扱った「年度方針」(Annual Policy)です。

トップマネジメントは、組織体の方向付け(Orientation)をするわけで、中長期計画に基づき年度方針を策定し、その方針を下位にブレークダウンするにつれ、SMARTつまり具体的な(Specific)、測定可能な(Measurable)、野心的な(Aggressive)、現実的な(Realistic)、タイムリーな(Timely)形に整備されていきます。前号で見た通り、方針の目標と方策は、活動計画として実施され、評価され、未達のものの原因究明がなされ、次年度の目標・方策に反映されることになります。
目標以上の結果が出たとしても、どうして良い結果となったのかを究明することになります。良い結果も「問題」として把握するのがTQMの見方です。思い起してください。「問題」とは、「現状とあるべき姿(目標)との差(ギャップ)」です。結果(現状)が良すぎるということは、あるべき状態(目標)をオーバーしています(差が生じています)。
筆者が2000年1月から3年間、JICA専門家として初めての赴任国であるバーレン王国商工業省でTQMを指導したことを診断協会のメルマガでご紹介しましたが、当時のPPT教材資料の1枚をここで論じてみたいと思います
<図3-2>をご覧ください。「TQMのものの考え方と主要な技法」としてタイトルを付していますが、15項目の配列にはメリハリがないので何とか意味のあるタイトルのもとに並べ替えようとしましたが気に入るものを見出せませんでした。この<図3-2>は、工夫前のオリジナル版です。念のために<図3-2>を前もって、日本語に翻訳します(<注>を付しています)。
TQMのものの考え方と主要な技法
- PDCAサイクル <注:TQMの根幹をなすメソドロジー(方法論)>
- 品質第一 <注:当時、工場では、「安全第一」の標語が多く見られた>
- 顧客志向 <注:顧客中心とした方が現状に合っている:顧客第一>
- 後工程はお客様<注:自部門産物に責任を持ち、後工程に迷惑を掛けない。>
- 優先順位志向 <注:「重点志向」と言い換えられる>
- 全員参加型管理 <注:全部門・全員が参加する経営がTQMの根幹>
- 機能別管理 <注:複数部門が全社的重要問題《Critical Issues》を解決する場合の連携管理>
- 方針管理 <注:トップから最下位のスタッフまで目標・対策をブレークダウン>
- 事実に基づく管理 <注:格言「データでモノを言う」がよく使われていた>
- バラツキ管理 <注:品質管理では、バラツキは重要概念>
- 源流管理 <注:業務の上流<前工程>にさかのぼって管理すること>
- 人間性の尊重 <注:QCサークルの基本理念、QC=Quality Control>
- TQMは教育で始まり、教育で終わる。
- 品質は、工程(プロセス)で作りこめ。
- 再発防止・事前防止<注:昨今、不祥事が明るみに出るごとに経営トップが「再発防止に努めます」と陳謝する姿がテレビで放映されますが、本当にそのように思っているのかと疑わしくなります。事前防止に尽力するべきです。>

<図3-2>の1.から15.には、「Kaizen(カイゼン)」と「The QC 7-Step Problem Solving Formula(QC的問題解決技法)」とを意図的に含めていませんでした。より大きな概念なので別の章で単独に説明をする考えからでした。1.から15.の技法、ものの考え方にタイトルを付けてグルーピング化しようとしましたが、当時、検討結果にはいずれも気に入らないので、そのままにしていました。
本稿を準備するに当たり、グルーピング化を図るべく、ChatGPTに「何らかのタイトルを用いてグルーピングして欲しい」と尋ねてみました。ChatGPTの最初の回答では、「教育と人材育成」の内容が3番目の「プロセス制御」に含まれていたので、4番目を設けて「教育と人材育成」として独立させるべきではないかと尋ねたところ、「その通りです」とのことで理由付けもしてありました。
また、<図3-2>に含まれていなかった「Kaizen(カイゼン)」と「The QC 7-Step Problem Solving Formula(QC的問題解決技法)」を「管理手法」、「プロセス制御」のいずれに挿入するべきかをChatGPTに尋ねると、「KaizenもQC的問題解決技法も管理手法に入れます」との回答を得ました。今後、TQMセミナーなどで話す機会があれば、「TQMのものの考え方」の構造が下表のようになっていると説明したいと思っています。
なお、これらの格言、技法、ものの考え方は、JICA専門家としてバーレンに派遣される前に、筆者が入手した「品質管理」関連の専門書から引用したもので、書籍の中でお世話になった品質管理の先人の皆様にこの場を借りて敬意を表したいと思います。

ISO9001
JICA専門家への起用が決定した1999年の秋、バーレン商工業省からISO9001導入指導も任務であるとの連絡を受け取ったことから、ISO9001:2000規格をチェックしたところ「プロセスを基礎とした品質マネジメントシステムのモデル」に出会い、感激したことを覚えています。即刻、ISO9000とISO14000の研修コースを受け試験に合格して、2000年1月バーレン王国に向けての離日前に「品質マネジメントシステム審査員補」、「環境マネジメントシステム審査員補」の資格を取得しました。
この国際規格が、日本型TQMのメソドロジー(考え方)、即ち、システムアプローチ、PDCAサイクル、継続的改善、顧客重視、方針管理(品質方針)等を反映していることが直ぐに分かりました。その後、ISO技術委員会による改訂で2008年、2015年版が出されています。手元に2015年版がありますが、筆者は未だにこの2000年版に愛着があります。英語版全文を何十回も読み返したからです。
ここで、「プロセス」とはどういうことかを考えてみましょう。ISO9001:2000(基本及び用語)では、「プロセス」を次のように規定しています。
“set of interrelated or interacting activities which transforms inputs into outputs.” 「インプットをアウトプットに変換する、相互に関連する又は作用する一連の活動」とあります。
他方、規格本文2.0に、“An activity using resources, and managed in order to enable the transformation of inputs into outputs, can be considered as a process. Often the output from one process directly forms the input to the next.” 「インプットをアウトプットに変換することを可能にするために資源を使って運営管理される活動は、プロセスとみなすことができる。一つのプロセスのアウトプットは、多くの場合、次のプロセスへの直接のインプットとなる。」との説明があります。
私は、プロセスの説明をどうすればよいかを悩んでいたので、この定義と説明にさすがだと感銘し、その概念を早速、図示しました。これで商工業省局員に「プロセス」とは何かを説明しました。皆さんには、この<図3-3>にご賛同いただけましょうか?InputとOutputの関係をよくご覧ください。
ISO規格本文の説明にある投入(input)と資源(resources)の関係がよく分からないと思います。この規格の英文解説を私が初めて見た時、inputとresourcesとの関係が分かりませんでした。それぞれがどのようなものを想定しているかが分かりませんでした。

「インプット」は、プロセスの開始時点で使用される原材料、部品、エネルギー、データ、情報などを指し、「資源」とはプロセスを実行するために必要な要素(手段)で、例えば、人員、設備、資金(ヒト、モノ、カネ等の経営資源)などと考えれば理解が進むと思います。従い、資源としての人員、設備、資金は、管理あるいはコントロールされなければならないことになります。経営資源(ヒト、モノ、カネ)はインプットではないことがポイントです。経営資源という場合、情報も含まれますが、ISO9001の「プロセス」の定義ではインプット(投入)のカテゴリーに入っていると理解しました。
QC的問題解決技法
さて、ここで話題を変えて、「QC的問題解決技法」について論じたいと思います。この技法は、カイゼン小集団活動で使う「QCストーリー」の骨格をなしています。QCストーリーは、カイゼンの集団活動メンバーが、社内あるいは社外でカイゼン活動や問題解決活動の成果を発表する筋書き(定型フォーマット)であるとお考え下さい。つまり、QCストーリーは、カイゼン活動/問題解決活動のプロセスと成果を効果的に伝えるための、標準化された形式です。下記の①~⑦に沿い、ステップを進め、問題解決を図ります。この技法のステップを図示化すれば、<図3-4>となります。


以下、次号(最終回)に続きます。カイゼンについて論じます。
【玉井 政彦】
この記事へのコメントはありません。