
大和商工会議所に聞く 商工会議所の役割と診断士との関わり方
中小企業の事業者はもちろん、中小企業診断士にとっても関わりあるステークホルダーの一つである商工会議所や商工会(以下、「商工会議所」)。そんな商工会議所の中には中小企業診断士の資格を取得して経営支援に携わっている方もいらっしゃいます。大和商工会議所の所員であり、神奈川県中小企業診断協会の仲間でもある片山大弐郎氏にお伺いした、「商工会議所の役割や大和商工会議所のビジョン」などについてご紹介させて頂きます。記事の後半では、片山氏が所属されている研究会“かながわコンテンツ研究所”で発表された「上手な商工会議所の使い方セミナー」の資料より、商工会議所と中小企業、そして中小企業診断士との関わり方などについてもお伝えしていきます。

■大和商工会議所とは
大和商工会議所は1994年に設立され、地域経済の発展を図ると共に、社会一般の福祉の増進に資することを目的として、幅広い公共性も持ちながら各事業に取り組んできました。2024年に「大和をもっと素敵にデザイン」というビジョンを策定し、「地域企業間取引の拡大」や「地商の拡大」などの4つミッションと「Buy Local One Yamato連動による産業活性化」や「各種業界団体等との連携による意見具申の推進」など4つの行動指針を掲げて、「企業の見える化(可視化)」や「デザイン経営の導入」を核に、地域経済循環の改善に取り組んでいます。(出所:大和商工会議所ビジョン「大和をもっと素敵にデザイン」より抜粋)
大和市は、地理的には神奈川県の中心にあるうえに、相鉄線では横浜駅に直通し、小田急線では東京都や川崎市、または藤沢市などへもアクセスも良い。古くから工場などはありながらも徐々に住宅地や商業施設注1へと変わっていき、ベッドタウン化してきました。昼夜間人口比率は81.9%注2と県内でも低い地域となっています。地産地消では無いですが、“大和市の住民が市内で働き、買い物して大和市を活性化させる“。そんな想いで大和市内の事業者を応援していきたいと片山氏は語っていました。

注1:イオンモール(株)と(株)イトーヨーカ堂がいすゞ自動車(株)大和工場跡地に共同開発(2000年6月1日大店立地法施行日に全国初の届出を実施)(出所:イオンモール大和HP 2025年4月10日アクセス)
注2:神奈川県統計センター「令和2年国勢調査 神奈川県 従業地・通学地による人口・就業状態等集計結果 令和2年 10 月1日現在の2020年の調査結果」
■風通しの良い会議所風土
大和商工会議所のホームページに『知って、使って、成長して!』と題された4分30秒の商工会議所の紹介動画が掲載されています。写真や動画、イラストなどもふんだんに盛り込みながら判り易く構成されていました。図3は大和市内で活躍されているチョークアート看板「Orangette Chalkart」の場面ですが、商工会議所の所員が会員事業者と共に考えながら経営支援に携わっている姿も感じられます。この動画は片山氏が上司に提案し、自ら制作の指揮を執ったとのこと。ボトムアップできる風通しの良い風土は組織として憧れます。

■大和市で開催される3つの祭典
大和市で開催される大規模なイベントは「やまと産業フェア」「大和市民まつり」「大和阿波おどり」の3つがあります。それぞれ特徴があり、大和商工会議所も直接または間接的に係っているとのこと。
その中でも「やまと産業フェア」は大和商工会議所が主催であるため企画から運営まで取り仕切る必要があります。毎年11月に開催されますが、その10カ月以上前から準備が始められるそうです。大和商工会議所館内や周辺の2つの公園を会場に、職業体験プログラムや“かみひこうき大会”などのイベント注3、物販やPR、JAと協力しての農産物品評会などが行われます。2024年に行われた産業フェアでの職業体験プログラムでは、キッザニアをイメージして、大和商工会議所青年部の皆さまと一緒に考えて、準備をされてきたそうです。特に、参加者に商業をイメージしてもらえるようお金の大切さや商売の仕組み、1億円を持ってみる体験など、商工会議所だから伝えられることは何か? 喧々諤々と話し合ったことで青年部の皆さまとも距離が縮まったように感じられたとのことでした。

注3:イベント内容は開催年により異なり、毎年イベント内容を決める所から始めているとのこと
また、「大和市民まつり」は大和市及び大和市民まつり実行委員会が主催となり、「大和阿波おどり」は神奈川大和阿波おどり振興協会が主催となっているため、商工会議所は後援の立場です。それでも、関係者との事前の打ち合わせやイベント当日の会場運営の手伝いなど、イベントを安全に開催するために必要なことは様々あります。後援であっても気を引き締めて取り組んでいるとのことでした。

■少数精鋭でマルチタスクの企業支援
商工会議所所員は全部で15人、そのうち経営支援チームの指導員は片山氏を含めて6名とのこと。その6名で8つの部会(工業部会や商業部会、サービス部会など)を掛け持ちで担当し、部会長や会員の企業経営者と共に、地域活性に向けた取り組みを行っています。また、「お店大賞【フォトコンテスト】」や「やまと街中行ってみたいお店大賞」、「ザ・ビジネスモール注4」など様々な事業者支援のサービスも活用されています。所員数は限られていますが、少数精鋭でも市内事業者を盛り立てるよう取り組んでいるということでした。
先に記したやまと産業フェアなど会員の協力無くしては成功しない取り組みもあります。日頃の会員同士の関係性を良好な状態にしておくのも、商工会議所所員の役目なのかもしれません。その取り組みの中では片山氏が得意としているゴルフコンペなどにも参加して、会員同士の親睦を深めるつなぎ役として活躍されていることでしょう。余談ですが、大学ゴルフで鳴らした片山氏とラウンドしたいという方は、是非声を掛けてくださいと話されていました。

注4:全国の商工会議所が共同運営する企業情報サイト
■上手な商工会議所の使い方
前職で東京ディズニーランドでのキャストを経験している片山氏は講演も上手で、かながわコンテンツ研究所でも評判が高い。先日の発表では「上手な商工会議所の使い方セミナー」と題して、商工会議所の役割や組織、経営者と中小企業診断士それぞれの関わり方などをお伝えくださいました。今回はその内容から一部を抜粋して紹介させて頂きます。資料は片山大弐郎氏に提供して頂いたものです。

まず「商工会議所の3つの役割」ですが、経営サポートやネットワーク構築・イベント企画については、前頁までに記した通りです。行政への政策提言については商工会議所の役割の一つとして、民間の力を結集した政策提言・要望活動を積極的に展開してその実現を図り、中小企業・地域を元気にすること(出所:日本商工会議所)と記されています。そのためにも事業者と本音で話し合える関係作りが必要なのでしょう。

上手な商工会議所の使い方(経営者・創業者編)には、経営指導員との信頼関係を築くや無料相談の活用、マル経融資や確定申告サポートなど7つのテクニックが示されています。その中でも、個々の中小企業に足りない情報収集力を補うためには各部会に入会して交流の場を拡げたり、セミナーなどに参加したりと、商工会議所が活かせる場面は様々あるということを改めて感じました。

上手な商工会議所の使い方(専門家編)には、商工会議所との関係を深めて、セミナーの講師や専門家として依頼されるための5つのテクニックが示されています。たとえ魅力的なコンテンツを持っていても、ただ待っているだけでは依頼されるのは難しい。専門家自身も積極的に商工会議所に働きかけて、名前を覚えてもらい、声が掛かる関係を作ることが必要です。セミナー企画の提案は、4~5月がベストだそうです。

片山氏のセミナーの最後で述べられていましたが、商工会議所の多くは所員の数が足りず、様々な情報を事業者に提供していくには中小企業診断士など専門家の力が必要だそうです。しかし、どんな専門家がいるのか出会う機会も限られています。私たち中小企業診断士もただ待つのではなく、まずは地元の商工会議所に顔を出してご縁を作ることが必要なのでしょう。

■謝辞と感想
大和商工会議所の片山様には公務でお忙しい中、ヒアリングのお時間を頂きありがとうございました。そして、セミナーでの資料もご提供下さり、感謝いたします。筆者も中小企業診断士になる前には事業者の一人として、そして資格を取得してからは中小企業診断士の立場で地元の茅ヶ崎商工会議所にはお世話になってきました。それでも、片山様のお話を伺い、改めて知ることも多くて勉強になりました。これからも商工会議所を味方に付けて診断士として事業者を応援していきたいと思います。
【加藤仁史】
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