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(連載企画) 中小企業診断士が知っておくべき「認知症」理解 第1回

はじめまして。精神科医・認知症専門医の千葉悠平と申します。普段は、病院で、認知症患者の早期診断から、入院対応まで、全領域を診療しております。副業として、個人事業YUADを開業しており、メンタルヘルス、認知症などの分野での新規市場開発、新商品開発などを検討しているスタートアップや企業の新規事業部の支援をしています。この連載では、中小企業診断士が知っておくべき「認知症」について、お話したいと思います。

なぜ、認知症について知っておくべきなのか?

高齢化

日本は、急速な高齢化を突き進んでいます。2021年時点で、我が国の平均寿命は、男性81.47歳、女性87.57歳といわれています。2022年時点では65歳以上の人1人に対して生産年齢人口(15から65歳)2.0人が支える状態となっています[1]。今後は、2040年問題といって、高齢者人口(特に75歳以上)の増加がピークに達し、年少人口、生産年齢人口は急激に減少します。このような人口構成の大きな変化は、経営環境に大きく影響すると考えられます。

認知症患者の増加

認知症の定義は、「いったん発達した記憶や思考などの認知機能が、さまざまな原因で低下し、日常生活や社会生活に支障をきたす状態になったこと」をいいます。一番頻度が多いのは、アルツハイマー型認知症で、高齢であることが一番のリスクファクターです。65歳以上の約16%が認知症です。80歳代の後半の男性の35%、女性の44%、95歳を過ぎると男性の51%、女性の84%が認知症であるといわれています[2]。2025年では、700万人が認知症となるといわれています。2020年時点で、認知症患者が抱える金融資産は160兆円といわれており、2030年には、215兆円に上るといわれています[3]。認知症の人の、預金や金融商品の解約、不動産の変更を家族が行うことは、非常に難しいです。中小企業の社長年齢の高齢化から、事業承継が間に合わなくなるリスクが指摘されています。

認知症の経済的損失

認知症の初期には、物忘れが多くなり、物事の判断、計画などが苦手になるため、見守りや声掛けが必要になります。徐々に進行すると、移動が難しくなり、トイレや入浴、食事の介助・介護が必要になります。認知症の初期に相当する介護保険制度の要介護1の人は、「必要な時に手を貸す程度」が55.3%で最も多いですが、要介護5になると「ほとんど終日」が63.1%と最も多くなります[4]。

認知症の人がいると、何らかの経済的な被害が発生しやすいといわれています。少し古い調査ですが、認知症発症以降に必要になった住宅改修工事、訪問などの押し売り契約、多重契約、貴金属などの紛失などの出費(経済的被害)が、60%以上経験され、平均被害額は171万円でした。また、認知症の家族がいることで、家族の離職や転居、資産切り崩しなどの出費(機会損失)が76%に経験され、平均損失額は497万円でした[5]。合計で約700万円に上ります。2021年に介護・看護を理由として離職した人は、約9.5万人といわれており、男性は約2.4万人、女性は約7.1万人、「55~59歳」で最も高くなっています[6]。少ない労働人口が、介護のためにさらに減ってしまうことも危惧されます。

認知症基本法の成立

2019年に認知症施策大綱が策定され、「共生」と「予防」に重点が置かれました。まず、すでにいる多くの認知症患者さんやその家族の尊厳を大切にする「共生」の視点。次に、認知症を予防する生活習慣の促進や創薬研究などの「予防」の視点です。そして、2023年6月14日、「共生社会の実現を推進するための認知症基本法」が成立しました。今後、国や地方公共団体の制度・政策は、認知症の人の人権や尊厳を尊重するという理念実現に沿って計画・実施されていきます。高齢化にさらされる企業においては、顧客、経営陣、従業員に対して、認知症との共生の視点に留意することが必要です。

【千葉 悠平】


[1] 厚生労働省 令和5年版高齢社会白書
[2] 朝田 隆 厚生労働科学研究費補助金(認知症対策総合研究事業).「都市部における認知症有病率と認知症の生活機能障害への対応」総合研究報告書.平成25年
[3] 星野卓也 日本~認知症患者の金融資産200兆円へ、課題は~ 第一生命経済研究所レポート 2018
[4] 厚生労働省 国民生活基礎調査 2022(令和4)年 
[5] 安田朝子、木之下徹. 認知症の経済被害と機会損失 CLINICIAN  NO. 583. 1125-1129 2009 
[6] 厚生労働省 雇用動向調査 2021年

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