協会活動のご案内

  1. HOME
  2. ブログ
  3. 会報
  4. (連載企画) 中小企業診断士が知っておくべき「認知症」理解 第3回

(連載企画) 中小企業診断士が知っておくべき「認知症」理解 第3回

2回にわたって、認知症が増えていることや、認知症について、社会がどのように向き合うかについて、お話ししてきました。

今回は、少し視点を変えて、認知症や、脳の健康に大変重要な睡眠に着目したいと思います。睡眠が、健康維持だけでなく、労働生産性や経済的損失とどのように関連するか、お話したいと思います。

①認知症と、睡眠の関係

アルツハイマー型認知症になると、睡眠の量も質も変化していきます。眠る時間は短く、浅い睡眠が多くなります。また、睡眠が分断され、途中で起きてしまうことや、朝早く目覚めてしまうことが多くなります。しかし、熟眠感は得られていることが多いです。ただし実際の睡眠は浅いため、日中の眠気を訴えることが多く、昼寝をすることが多くなります。眠る時間も早くなりやすいです。

軽度認知機能障害の人の睡眠も、浅く、短く、分断されている、良くない睡眠になっています。興味深いのが、このような良くない睡眠に対して、熟眠感を感じている人ほど、認知症へ移行しやすいといわれています。自分の睡眠の質が、自分でわかりにくくなることは、一種の症状ととらえることができます。[1]

②睡眠と、認知症の関係

睡眠の量は、認知症のリスクに関係します。4時間未満の睡眠時間の人は、認知症の発症リスクが7時間前後の人と比べて高いといわれています。不眠症があることも、認知症のリスクであるといわれています。睡眠薬については、認知症のリスクと言われていますが、眠れないよりは、眠った方がよいといわれています。短時間睡眠が、認知症のリスクになることの理由として、グリンパティックシステムが知られています。深い睡眠状態になると、脳のグリンパティックシステムの作用により、アミロイドなどの老廃物が除去されることがわかっています。毎日深い睡眠をとることで、毎日脳の老廃物を除去するということが行われています。毎日良い睡眠をとることは、脳の健康を維持するためにはよいだろうと考えられています。一方で、9時間以上の長時間睡眠をとることは、脳出血のリスクを高めるとも言われています。横になっている時は、脳には血圧が高くかかることと関係します。[2]

 昼寝についてですが、どうしても長く眠れないときや、日中眠たいときに、昼寝をすることは悪いことではありません。30分以内の昼寝をとっている人は、むしろ認知症の発症率が低かったといわれています。しかし、それ以上の長い時間の昼寝をする人は、認知症の発症率は高いといわれています。[3]

③睡眠が、日中のパフォーマンスに与える影響と、経済に与える影響

睡眠時間が足りない睡眠不足の状態では、脳の中の掃除が行われていない状態ですので、当然集中力などが低下します。そこで休日に長く寝る、いわゆる寝だめをすると解消するかというと、実はそうではないことがわかっています。一日だけ長時間睡眠をとっても、脳の機能は十分回復しません。継続が必要です。このことから睡眠不足は、負債をため込んでいる状態と考えられ、睡眠負債という言葉が注目されています。睡眠負債は、様々な健康リスクと関連するといわれ、疾病のために欠勤や休職といった問題を引き起こします。これは、「アブゼンティイズム」といわれます。一方、欠勤などはせず、出社はしているけれども、心身の問題のために十分な能力を発揮できない状態を「プレゼンティイズム」と呼ばれます。アブゼンティイズムよりも、プレゼンティイズムの方が労働生産性の低下が大きく、企業にとって影響が大きいことがわかっています。

2006年に日本で行われた調査では、睡眠不足、睡眠負債を軽視したことで、産業事故などのリスクも高まり、年間3兆5千億円ほどの経済的損失があることがわかっています。シフトワーク、長時間勤務、リモート勤務といった睡眠時間、睡眠衛生に影響しうる就労環境では、特に注意が必要でしょう。[4]。健康経営の取り組みに、睡眠時間の確保だけでなく、積極的な睡眠評価サービスを利用するなど睡眠を項目に取り入れることは、健康維持・向上と、疾病リスクの低減、労働災害の低減、生産性の向上といった多くの効果があると考えられ、多くの企業で取り組まれています。

【千葉 悠平】

引用 
[1]Sun Q et al. Int Psychogeriatr 2016; 28:1493–1502.
[2]Kripke DF et al. Arch Gen Psychiatry. 2002; 59: 131-6.
[3]Asada T et al. Sleep.2000; 23:629 34.
[4]西野精治 睡眠医療 2018; 12:291-298

  • コメント ( 0 )

  • トラックバックは利用できません。

  1. この記事へのコメントはありません。

関連記事

活動のご報告