
(連載企画) 中小企業診断士が知っておくべき「認知症」理解 第4回
最終回の今回は、若年性認知症及び障害者差別解消法について、さらに、連載のまとめとしてニューロダイバーシティについてお話したいと思います。
①若年性認知症について
認知症は若い世代でも一定数の患者がいます。65歳未満で発症する認知症を若年性認知症といって、日本には約3.5万人の患者がいると言われています【1】。2017~19年に実施された生活実態調査から、最初に気づいた症状は「もの忘れ」(66.6%)、「職場や家事などでのミス」(38.8%)が多く、約6割は発症時点で就労していたことがわかっています。
初めは、物忘れや仕事のミスといったことから、周囲から「うつ病なのでは?」と考えられる場合も多いです。若年性認知症の診断は難しく、専門の病院での検査が必要になります。治る認知症である場合もあります。
認知症を発症したからといって、すぐに何もできなくなるわけではありません。適切な医療につながることで、その方の認知機能の特性を明らかにすることができます。若年性認知症の患者さんの中には、職場での「合理的配慮」によって、雇用の継続につながる例も多くあります。私の経験でも、職場の上司と一緒に患者さんがいらっしゃって、どのような仕事ができるかについて、心理検査の結果を共有しながら話し合い、配置転換を工夫して、定年まで働き続けることができた方もいらっしゃいます。
②障害者差別解消法
「合理的配慮」という言葉は、今後法律上大事な用語になります。2024年4月1日から改正障害者差別解消法が施行され、認知症基本法と同じように「共生社会」が重視されることになります。障害者の定義として、「身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む)その他の心身の機能の障害がある者であって、障害及び社会的障壁により継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態にあるもの」とされており、障害者手帳の有無は問いません。事業者については、「営利性や非営利性、個人・法人の別を問わず、同種の行為を反復継続する意思をもって行う者を指す」と定義されおり、障害者への不当な差別的取扱いの禁止と合理的配慮の提供が義務化されます。
2つポイントを挙げます。1)障害者への不当な差別的取扱いの禁止は、「正当な理由なく障害を理由として財・サービスや各種機会の提供を拒否してはならない」ということです。2)合理的配慮の提供は、個別の事例ごとに検討が必要ですが、障害者の申し出に対して、事業者の事業の目的・内容・機能と照らし合わせて、かつ過重な負担でない範囲で社会的障壁の除去の実施を、「建設的対話」によって検討していくプロセスが必要と言われています。
障害者差別解消法を企業はよく検討し、顧客のみならず従業員に対しても遵守することが必要です。BtoC企業では、従業員に対して障害についての理解を深めるためのセミナーや講習会での教育を始めています。また、障害者の雇用についても、法定雇用率が2024年4月から2.5%、2026年には2.7%に引き上げられることが決まっています。障害者雇用の際には、厚生労働省の補助金制度があり、これを活用しながら障害者差別の解消に取り組むことが、企業が持つ社会的責任を果たすことにつながります。また、訴訟などの法的リスクの軽減にも非常に有効です。
③ニューロダイバーシティ
本連載では認知症を中心にお話しましたが、人間の個性は脳によって表され、非常に多様です。ジェンダー、民族、性的指向、障害などの神経学的差異を認識し、多様性として尊重すべきという考え方をニューロダイバーシティと言います。すべての人が共生できる社会を目指すというニューロダイバーシティの理念は、認知症に対する理解深化や支援の枠組みを通して、企業支援について有用な視点を提供します。企業内の支援文化は、従業員の満足度を高め、ロイヤルティを強化し、従業員の個々の能力や才能を認識し、それを最大限に活用する方法を見つけ出します。多様性に基づいた、異なる視点やアプローチは新しいアイデアを生み出し、競争優位性を確立することに貢献します。
認知症に関わる案件は、社会全体で取り組む課題です。企業も避けては通れず、今後、経営環境の中でも比較的大きな脅威になっていくことでしょう。認知症に関する知識は非常に深く、広範囲にわたりますが、本連載がこれからの事業環境を乗り切るうえで役立てば幸いです。
【千葉悠平】
【1】粟田主一 若年性認知症の有病率・生活実態把握と多元的データ共有システム https://www.tmghig.jp/research/release/2020/0727-2.html
この記事へのコメントはありません。