
川崎信用金庫様に聞く「診断士の力を経営支援に」
中小企業診断士とつながりが深い外部機関へのインタビューシリーズ。3回目の今回は、神奈川県に8つある信用金庫の中でも最大規模を誇る川崎信用金庫(本店・川崎市川崎区、56店舗)にうかがいました。2023年に創立100周年を迎えた川崎信金は地域密着を掲げ、中小企業の経営支援に診断士の力も生かそうとしています。自らも診断士資格を持つ、お客さまサポート部の河野博彦審査役(47)に、その取り組みを聞きました。
川崎信金は2022年4月、中小企業診断士の登録養成課程を持つ城西国際大学大学院(東京紀尾井町キャンパス)と「産学連携協定」を締結した。養成課程で学ぶ大学院生が、川崎信金が紹介した中小企業で診断実習を行うことで企業の経営課題を明確化し、その課題解決を川崎信金が支援する試みだ。診断実習は、診断士の2次試験合格後の実務補習と同様のイメージで、2年間の在学中に5回ある。大学院生8人と指導教員2人が企業に出向き、経営者や従業員からのヒアリングなどを行って診断報告書をまとめ、社長らの前で発表する。同様の協定は、24年7月、兵庫県信用組合と大阪経済大が結んだが、川崎信金は先駆的な試みだった。 |
先駆的な連携協定だと思いますが、まずは、連携のきっかけを教えてください。
もともとは試験的に2019年ごろから始まりました。城西国際大大学院の養成課程で学んだ当金庫の職員が橋渡しをされたのがきっかけです。診断先への訪問はだいたい8月か1月頃に行われています。当金庫にとっては、中小企業に経営診断というサービスを無償で提供できますし、大学院側も診断実習先の企業の選定が多様化でき、お互いにメリットがあります。22年以降は計20社で診断実習が行われました。製造業が過半数の11社ですが、建設業や飲食業もあります。

診断先の企業はどのように決めるのですか
私が所属するお客さまサポート部が調整しています。毎年4月ごろに各支店に募集をかけて、推薦してもらいます。その中から年間5社程度を選びます。

診断を受けた企業側の反応はいかがですか。
経営者には、インタビューに応じたりする手間をとらせてしまいますが、われわれは「人間ドックを受けるようなものです」と説明しています。経営者自身ではなかなかできないような従業員アンケートや顧客アンケートも行ってくれるので、異なった視点が参考になり、課題が浮き上がってくるようです。それまで取引先ではなかったところに支店が経営診断を勧め、それがきっかけで取引先になっていただいたケースもあります。また、経営診断の成果物である診断報告書の内容は多岐にわたるため、お客さまと話し合いにより、解決する課題の優先順位を付けて伴走支援を行っております。
川崎信金では診断士の育成にも力を入れているそうですが。
自己啓発支援制度として、「中小企業診断士養成制度」があり、一定の要件を満たした職員に、資格の専門学校の授業料を負担するなどしています。実際にこの制度を使って診断士資格を取得し、お客さまへ専門的なアドバイスや事業再生のお手伝いをしている職員も複数おります。
今後の金融機関ではコンサルティング機能が必要だと言われていますが、いかがですか。
当金庫では、経営方針の一つに「地域と共に歩む協同組織金融機関としての社会的責任と公共的使命を果たし、地域社会の発展に貢献する」ことを挙げ、中小企業の経営支援、コンサルティング機能の強化に力を入れています。お客さまサポート部は18年4月に、経営者の課題にワンストップでお答えすることを目指して創設されました。経営者からの相談に対しては、部内に支店担当を6名配置しており、重点的に支援しています。また、外部支援機関(公益財団法人川崎市産業振興財団、公益財団法人神奈川産業振興センター、公益財団法人横浜企業経営支援財団等)とも連携して、専門家派遣を行っておりますが、専門家に登録されている多くの診断士が活躍されています。
今後、新たな動きはありますか。
今年6月に、京急本線・大森海岸駅の近くに「大森支店」(東京都品川区南大井)をオープンしますが、新支店のオープンは1998年の宮前平支店以来、27年ぶりです。この支店は、法人や個人事業主専用の店舗で、資金繰り支援や経営支援に特化したサービスを行います。当金庫としては、初めての事業性特化型店舗となります。もともと2022年4月に「大森オフィス」として開設し、地域の事業者支援をしてきましたが、今後も地域のニーズに即したサービスをさらに拡充し、「この街のベストサポーター」として地域密着型の金融を進めていきたいと考えています。
本日はありがとうございました。
■城西国際大大学院で診断士登録養成課程を担当する山﨑督教授のコメント
中小企業の経営改善が社会課題となる中、中小企業診断士が担うべき役割は、その領域や量ともに拡大しており、診断内容も高い専門性が求められます。このような状況下で、中小企業診断士を目指す方も増加傾向にあり、本学においても志の高い学生を毎年お迎えしております。経営診断実習においては中小企業の経営者の真意を掌握し、納得性と実効性の高い提案を試みることが求められます。その際に経営者との信頼関係を築くことが鍵となります。連携協定により、川崎信用金庫様と既に信頼関係のある企業様に実習を受け入れていただけることで、実り多い実習が実現していることに、改めて感謝申し上げたいと思います。ご紹介いただいた地域の企業様に少しでもお役に立てるよう、真剣に実習に取り組んで参りたいと考えております。
■おわりに
インタビュアーの遠田も城西国際大大学院の養成課程OBです。在学中の診断実習先5社のうち、2社が川崎信用金庫様からの紹介でした。診断先の経営者にとっては、正体も実力もわからぬ学生に、決算書類などを開示したり、従業員のヒアリングをさせたりするのはハードルが高いことでしょう。そこに地元信金の紹介が入っていただくことで、企業側の警戒も薄らぎ、経営者とも本音ベースでの議論ができたように思います。学生としての感想を一言でいえば、大学院、信金、診断先企業のみならず、学生にもメリットがある「四方よし」の連携協定だと感謝しております。
【遠田 昌明】
この記事へのコメントはありません。