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連載企画 コロナ禍だからこそ、成功を収めた中小企業の特徴(第3回)

 今回は企業自身が並々ならぬ努力を重ねて業況を改善させた企業について、J-Net21の「コロナ禍でがんばる中小企業・商店街」より成功を収めた特徴とともにコロナ禍で特に影響を受けた業界である宿泊業、飲食業を紹介致します。 

 では最初に『愛犬と泊まれる高級リゾートで「ブルーオーシャン」』に参入した「株式会社湯元舘」です。ここは、1929(昭和4)年に雄琴温泉最初の旅館として開業し、1964(昭和39)年に株式会社化した老舗旅館。グループ全体で滋賀県と京都府に6軒の宿泊施設を運営し、2019(令和元)年のグループ売上高は23億円を超えていました。ところが、コロナ禍により海外からのお客様が全体の4分の1を占めていたが一気にゼロになった上、国内の団体旅行もゼロになり、旅行会社を経由しての予約は激減し一定数の予約が入らない日は休業する事態となってしまいました。
そこで、愛犬家でもある支配人が設計段階から関わり「愛犬と泊まる湖畔の温泉リゾート」をコンセプトにした「びわ湖 松の浦別邸」(滋賀県大津市)をオープンさせました。遊休施設となっていた企業の保養施設を購入して活用したそうで、コロナ禍により宿泊客が激減したなかでの新規事業に対して慎重な意見もあったが、入念な市場調査に裏打ちされた自信もあり、コロナ禍の真っただ中でのオープンに踏み切ったそうです。

その結果、京阪神地区の富裕層を中心に宿泊客が多く訪れ、稼働率はほぼ100%で、リピーターも多く、リピート率は35%ほどとのことです。宿泊中の愛犬の写真を自身のSNSにアップしたり、1泊の予定を急遽2泊にしたり、チェックアウトの際に次回の予約を入れたりするお客様がいて、期待していた以上の満足を提供することや、高級なサービスに見合った価格設定をしたこともあり、京都の奥座敷・湯の山温泉にある「翠泉」(京都府亀岡市)と、ともにコロナ禍での収益の原動力となったようです。

 また、以前からデジタル化の取り組みを推し進めており、コロナ禍においても、業務の効率化と生産性向上、サービス向上のためのデジタル化の取り組みを中断することなく進めており、厨房から食事場所まで配膳する自動搬送装置や、予約の段階で宿泊客の情報が厨房のモニターに表示されるシステムなどを導入して業務の負担軽減や、食材の受発注システムを導入し経費の削減を図ったり、脱衣所に設置したセンサーと部屋のキーに搭載したICチップにより、温泉の混雑状況を各部屋でお客様のスマートフォンからリアルタイムで確認できるサービスを導入することで、よりお客様に快適に過ごして頂けるようなことも行っており、どんどん高まってきているお客様が求めるサービスレベルに合わせて、ハード・ソフト両面でのレベルアップを継続していくそうです。

このようにコロナ禍により観光業界が壊滅的な被害を受けた中、徹底的な市場調査を行ったうえで機会を捉え、自社の強みの一つである老舗旅館として高級路線へのブランディングを行い、旅館業の弱みである労働集約的な部分をデジタル化に推し進めることで業務の効率化を図り、診断士が企業診断を行う時に使う、クロスSWOTの「強み×機会」と「弱みを克服して×機会」を実践して乗り越えた良い例と言えるでしょう。 

 続いては、『弁当と総菜のテイクアウトでV字回復』の「だしダイニング楓」です。ここは、老舗の水産加工品メーカー「にんべん」が展開している「だしアンバサダー」に2018年11月に認定されたことを機に、料理研究家として活動を開始した田口舞純(たぐちますみ)氏が個人事業主として川口駅西口で喫茶店に6年間貸していた夫の実家の1階を改装して19年4月、娘や仲間と開業。家族のために手間ひまをかけて、お母さんが作るような、だしを利かせた栄養バランスのよい家庭料理を提供している飲食店です。

 新型コロナウイルス感染症拡大のニュースが流れるようになったころから、外食自粛ムードが漂い始めて夜間の団体予約などが減少し強い危機感を覚え、緊急事態宣言が発令された4月は、3月比で売り上げが半減。5月と6月も同25%の減収となり、大きな打撃を受けたとのことです。

 消費税が10%に上がった19年10月から、カレーは持ち帰りできるようにしていたため、テイクアウトサービスを本格的に始める素地はできていたこともあり、緊急事態宣言が発令された翌日の4月8日に早くもテイクアウトのみの営業にシフトし、弁当だけでなく総菜のニーズもあると感じていたことから、夕方には総菜販売を強化したそうです。そして、同時にコスト削減も怠らず、きんぴらごぼうは泥つきのごぼうを洗って手で刻んだり、から揚げは問屋から仕入れた鳥肉の脂や筋を取り除き、1つずつグラム数を計りながら切り分けるなど、店内で下処理する工程を増やして支出を抑えたそうです。さらには単価を見直し、売れるメニューに絞って販売し、こうした自助努力の結果、7月にV字回復を達成。8月も昨年実績を上回る売り上げになっていたとのことです。

 また、当初から事業計画の作成などで伴走支援を受けてきた埼玉県よろず支援拠点の助言を得たり、同拠点のPR専門家にブランディングのポイントやプレゼン時の注意点などのアドバイスを受けながら、川口商工会議所女性会が20年2月19日に主催したウーマンビジネスコンテストに参加。大賞と、来場者の投票で最も支持を得た事業者を称えるオーディエンス賞をダブル受賞したこともあり、多数のメディアでこの実績が紹介されたことが集客効果を生み、リピーターや新たな顧客獲得につながったようです。

 そして「だしダイニング楓」では、地元の川口駅西口周辺の市場調査を実施してコンビニの袋を下げた高齢者が多いことに気づき、調べてみると「孤食」「栄養の偏り」「不規則な食生活」という3つの問題を抱えていることが分かり、高齢者を巡る3つの課題—孤食・栄養の偏り・不規則な食生活—の解決に尽力するとともに新型コロナを通して店の存在意義を見つめ直す好機となったそうです。

 ここでも市場の調査を実施しており、ニーズを探ることはとても重要であることがわかります。また、コストの削減や公的機関による適切な支援を受けることもコロナ禍で疲弊した時には事業を立て直すためには効果的であることがわかります。最後になりますが、SWOTによる現状分析、ニーズを把握すること、効率化やコスト削減による無駄の排除、公的機関による支援等、診断士として基本的に理解していることを事業者の目線で考え適切にアドバイスすることでコロナ禍という未曾有の危機でも乗り越えられることが分かりました。                


【鈴木 洋路】

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