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(連載企画)診断士における伴走型支援の在り方について(第3回)

連載3回目の今回は「伴走支援の在り方検討会報告書」のⅡ章について深掘りしていきたいと思います。

「伴走支援の在り方検討会」においてまとめられた報告書
Ⅱ章目 「経営力再構築伴走支援モデルのフレームワーク」

 これまでも成長、持続的発展を目指す中小企業、小規模事業者に対する支援に当たり、経営者と支援者の間での対話は当然行われてきたが、どのような状況にある中小企業、小規模事業者に対しても、「本来なくてはならないこと」に対して、不足している点や問題点を支援者が特定・指摘するという方法【ギャップアプローチ(問題点検型アプローチ)】で行われることが多かったのではないでしょうか。
 このギャップアプローチ(問題点検型アプローチ)は、経営上の問題点をあぶり出すための手段として行われるが、知見を有している専門家があまり知見を持っていない経営者に対して「点検する」という構図になり、この方法だけで進めていこうとすると、経営者との信頼関係を構築することが難しくなり、表面的な経営課題に留まってしまい、その課題の内容について経営者が腹落ちもせず、企業の潜在力を最大限引き出すに至らない場合が多かったと報告書はまとめており、改めてこれまであまりウェイトが置かれてこなかった経営課題の設定プロセスへの支援を行うことが重要であると説いています。

 それでは経営力再構築伴走支援を実施するに当たって踏まえるべきことは何なのか、報告書では以下の三要素を挙げています。

要素一:支援に当たっては対話と傾聴を基本的な姿勢とする。

 経営者の自己変革力を引き出し、経営力を強化する目的を達成するためには、経営者との対話、さらに必要であれば経営幹部、後継者や従業員等とも対話することが必要であり、その際、相手の話をしっかりと聞き(傾聴)、相手の立場に共感することが重要で、そのような姿勢によって、相手の信頼感を十分に得ることが支援の前提となります。そこで伴走支援に必要な考え方にコーチングの考え方とスキルが有効で、2022年11月に行われた南関東ブロックスキルアップ研修ではコーチングの考え方をもとに対話と傾聴を含めた伴走研修が行われました。
 研修では、傾聴のための心得として、以下の項目を挙げています。

1.話しやすい静かな環境を選ぶ
2.視線を軽く合わせる
3.簡単なメモをとる
4.話すことよりも聴くことに時間を割く
5.タイミングの良い「うなずき」「相づち」を忘れない
6.相手の言葉を反復する
7.相手の話に割り込まない、結論を先取りしない、最後まで聴く
8.相手が話をしているとき、別のことを考えたり相手の考えを先読みしない
9.評価しない、判断しない
10.相手に話をさせる、会話を独占しない
11.相手のノンバーバルな情報を受け取る
12.自分の先入観に気づく
13.どう答えるかは相手が話し終えてからとし、相手が話している間に考えない
14.沈黙を受け入れる
15.無意識の偏見に気づく

 そして、これらを意識し傾聴をして聴き出した内容をベースとして、さらに問いかけを発することによって、相手の想い、考えを余すところなく言語化してもらうとともに、その問いかけによって相手の頭の中を整理し、出口の具体化を促していくことが大切になります。

出典:伴走支援の在り方検討会報告書より

要素二:経営者の「自走化」のための内発的動機づけを行い、「潜在力」を引き出す。

 経営力強化のためには、経営者が取り組むべきことに腹落ちし、当事者意識を持って、能動的に行動することが必要である。「内発的動機づけ」が適切に行われれば、経営環境に変化が生じた場合であっても、経営者自身が自立的かつ柔軟に経営を正しい方向に導くことができると期待され、企業がその「潜在力」を最大限に発揮されることに繋がると報告書は説いています。そして、ただ単に「答え」を提供するような支援を行うことは適当ではなく、経営者自身が「答え」を見出すこと、対話を通じて経営者もよく考えること、経営者あるいは社内チームと一緒に作業を行うことなどを意識した支援が重要で、上述のスキルアップ研修では【SMARTモデル】を参考に「答え」を見出すこと進めています。

【SMARTモデル】

 Specific :具体的にイメージ出来る
 Measurable :達成度合いを判断するのが容易である
 Achievable :現実的に達成できる
 Related :真の要求や願望の実現につながる
 Time-bound :いつまでに達成するかが決まっている

 企業全体の「自走化」を実現するためには、経営者一人の力では限界があり、経営者と共に変革に取り組む過程において、支援者が伴走支援をしていき、必ずしも「自走化」は独力で経営を行えるようになることを意味するものではありません。支援者等の助言を踏まえて自らの意思、判断で取り組んでいるかということが重要になります。

要素三:相手の状況や局面によって具体的な支援手法(ツール)を使い分ける。

 経営力再構築伴走支援モデルの根幹は、対話スキルであり自己変革力を身に付け、自走化を促し、企業の潜在力を引き出すという目的を達成するための対話型支援のやり方(アプローチ法)として、大きく分けて以下の2つがあると検討会において示しています。

出典:https://www.meti.go.jp/press/2021/03/20220315002/20220315002-1.pdf

1.傾聴型ギャップアプローチ
 今の事業の内容や経営者がこれまでにやってきたこと、経営に当たって考えていること等にしっかりと耳を傾け、それを讃えたり、肯定したり、共感を示したりするような形での対話から始めるアプローチである。

2.強み発見型アプローチ
 支援対象の中小企業、小規模事業者の「強み」「存在価値(アイデンティティ)」を特定し、それを踏まえて導き出せる「未来像(夢)」を描くことを目的とし、その未来像実現のための設計図こそが「経営戦略」となるアプローチである。  

次に検討会の議論の中で出てきた支援手法(ツール)について紹介します。

1.ローカルベンチマーク
 事業者の経営の現状を把握し、見える化するツール。ローカルベンチマークシートを使用した対話を通じて、支援者と経営者が企業経営の現状、課題を相互に理解し、経営者の「気づき」により、経営改善を目指すもの。

ローカルベンチマークの手引き:
https://www.meti.go.jp/policy/economy/keiei_innovation/sangyokinyu/locaben/pdf/pamphlet.pdf

2.経営デザインシート
 事業者の将来を構想するための思考補助ツール。事業環境の変化を見据え、自社や事業の「これまで」を把握するとともに、「これから」(ありたい姿)を構想し、「これから」と「これまで」の比較により、移行戦略を策定するためのシート。1枚で全体を俯瞰することができる。

経営デザインシート作成テキスト:
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/keiei_design/designsheet_text_01.pdf

3.資金繰り表
 いわゆる「どんぶり勘定」で経営を行っているような事業者に対しては、簡単な資金繰り表を作成してみるだけでも課題が見えてくる(このままで事業を継続できるか、経営者の「命銭」としての収益が上がっているか等)。

 本報告書において打ち出した「経営力再構築伴走支援モデル」による伴走支援は、経営者や従業員との対話を通じて「腹落ち」に導き、その潜在力を引き出すことにより、自ら経営上の様々な障碍を乗り越えることを可能にするものである。支援者が経営者に徹底して伴走するこのモデルは、「腰を据えた」経営の変革に取り組むのにまさに適した手法であるとまとめています。

 最後に中小企業基盤整備機構による「経営力再構築伴走支援研修」や南関東ブロックスキルアップ研修で行われた「伴走型支援研修」において、共通して重要さを訴えていたことに報告書と同様に「聴く力」を挙げていましたが、私自身両研修を通して「聴く力」の難しさをとても感じました。それは単に話を聴くことだけでなく、支援する事業者の話をどう深掘りすれば、支援する事業者も考えていなかった経営課題を自分自身で見つけることができるようになるか適切に導いていくことが求められるからです。このスキルは一朝一夕では身に付けることはできないので、たくさんの事業者さんとの対話をしていかなければなりません。そのためにもコツコツと支援実績を積み上げて「聴く力」の能力を高めていきたいと思います。次回は伴走支援の事例を中心に紹介をしていきます。

 【鈴木 洋路】

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