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(連載企画)診断士における伴走型支援の在り方について(第4回)

 連載4回目の最終回は伴走支援の事例を紹介し診断士としての伴走支援の在り方についてまとめたいと思います。紹介する事例は「伴走支援の在り方検討会」の報告書にある事例集より比較的簡潔に纏っており、支援事業のイメージし易いものを選ばせてもらいました。

有料老人ホームへの支援事例(樫谷委員)

1 支援対象の概要・業種、支援の開始時期等

関東近郊の株式会社、事業内容:有料老人ホーム
支援開始:2013 年(継続中)

2 支援の概要

① 背景
 金融機関からの巨額の借入金により、東京から健常者の老人を対象に入居者を募ることを企画し、高額な入居料を前提に、相当の建築費をかけ、住宅型と介護型合わせて 200 室弱の高級有料老人ホームを建設。東京から少し距離があることなどから入居率が 10%台にとどまっており、建築費の一部も払えない状況で、入居者候補の事業継続の不安もあり、入居率の改善が見込めない状況となっていた。

➁ 再建に向けた取組
 経営者と伴走し、この苦境に陥った原因とこの施設の持つ潜在力と再建可能性について社員を含め、苦境から脱却するための方策について検討した。当初は、この苦境、破綻危機からの脱却、再建の可能性について半信半疑で十分には納得できていないないためか、社員の意識は極めて低かったが、数値ベースの議論も併せ、経営者及び社員と繰り返し議論を行なった。この施設の持つ潜在力に着目し、様々なデータも収集し、議論を重ねているうちに様々なアイデア等が経営者、社員から出されるなどした結果、地元の一定層にターゲットを絞った新らしい事業モデルを策定することができた。一方、過大債務に関しては、一般債権者にも影響する法的整理ではなく、私的整理により金融機関や建設会社に新しい事業モデルに基づく事業計画を示し、粘り強い交渉を重ね、2 年ほどかかったが、金融機関等からも理解を得て、一定額の債務圧縮の同意を得ることができた。

③ 更なる展開
 新しい事業モデルの下、2年目から入居率も徐々に向上してきたこともあり、事業存続の可能性も高くなったとの認識から、社員の再建に対して取組む意識、姿勢がますます向上した。ターゲットとなる入居者が満足するレベルのサービスの質を確保のため、きめ細かいサービスが可能な内部サービスの充実に取り組むなどサービスの改善改革を継続的に実施したことから、入居者からの評価も高くなり、4年目には入居率90%を達成し、健全な企業に変身し、サービスの質は地元でも高く評価されるようになった。現在は、ほぼ100%の入居率を確保出来ている。また、若手幹部候補の教育や社員教育も徹底され、経営者、社員一丸となって自主的・継続的に改革改善が行えるようになったが、企業の要請で会議等に参加するなど引続き関与、伴走している。

3 経営力再構築型伴走支援の実施に当たって心がけたこと

 業績不良、過大債務など非常に厳しい状況であったので、まず、経営者、社員に現状を理解してもらうこと、危機感を共有し、どのような事業モデルとするとこの会社、事業は生き残れるかを数値で展開しながら議論を重ねた。特に、会社の今後の方向性を決める事業モデルの改革は、経営者、社員一丸となった自主的な取組が出来る様に努めた。

4 支援実施前と実施後で、経営者、従業員、会社全体を通じて変化を感じた点

 支援実施前は、破綻危機に陥っていたことから、コスト削減が至上命題で、経営者、社員の意欲は極めて低く、サービスの質は十分ではなく、事業モデルの改革などは議論もしていない状況であった。関与当初は企業再生の可能性について、半信半疑であったが、債務圧縮の目途が立ったころから、経営者、社員の改革意欲が目に見えて向上し、新しい事業モデルの構築に一丸となって対応するようになってきた。実際に成果が出始めると、若手幹部候補教育及び社員教育など、自主的な取組がますます進み、予定した期間よりも早く、一定の利益の確保や資金の安定化が可能となった。

引用元:https://www.meti.go.jp/press/2021/03/20220315002/20220315002-1.pdf
(伴走支援の在り方検討会 事例集より)

 この上記事例においても伴走支援の鍵は、経営者や従業員との議論・対話を通じて「腹落ち」を導き出すことであり、改めて傾聴や相手の立場に共感することが重要で、支援側のそのような姿勢によって、相手の信頼感を十分に得ることが出来、極めて低かった経営者、社員の意識が改善し、自ら率先して改革をするようになったという事だと思います。

 ここで、改めて中小企業診断士というものを再確認してみたいと思います。中小企業診断士は「中小企業支援法(昭和38年法律第147号)」第11条及び、「中小企業診断士の登録等及び試験に関する規則(平成12年9月22日通商産業省令第192号)」に基づいて、経済産業大臣が登録する国家資格であり、「中小企業の経営資源に関し適切な経営の診断及び経営に関する助言に従事する者」とされており、現状分析を踏まえた企業の成長戦略のアドバイスが主な業務とされています。そして、企業の成長戦略のアドバイスをしていく上では、専門的な知識の活用とともにそれを活用していくために、常に新たな専門的知識をインプットしていく努力をしていかなければなりません。

 実務従事や個別支援などで支援先に赴いた際に「上から目線でものを言ったり」、「分かりにくい専門的な話を滔々と語る」ことのないようにと事前に注意を聞いたご経験が、皆様もよくお有りと思いますが、そこで私が何を言いたいかと申しますと、中小企業診断士として伴走支援を行っていくためには、企業の成長戦略に必要な専門的な知識の活用をするための精進だけでなく、支援をおこなう先はお客様であるということを十分に理解して、そのお客様に目線を合わせて、謙虚かつ親身にそして、事業者に寄り添うことで伴走支援というものが出来るのだと感じました。

 そして、今後は国の政策からも伴走支援というかたちで中小企業診断士の支援が増えることが予想されます。伴走支援を行うには一定期間事業者と相対することになりますので、中小企業診断士としてスキルの向上を目指すだけでなく、総合的な人間力も磨いて日本経済の活性化に寄与していきたいと思います。

 【鈴木 洋路】

こちらから、連載の第一回からお読みいただけます

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