(連載企画)ものづくり企画 原価企画で創る新商品開発プラットフォーム 第4回
長年、製造業で新商品企画を担当してきて「小規模事業商品の原価低減は難しい」と感じています。
規模が小さければ生産販売量が少なく、新規部品を採用すれば部品購入における量産効果も望めません。そのようなボリュームメリットを出せない小規模事業でいかに原価を抑えた商品を企画して目標価格と利益を確保するのか。最大のポイントは初期投資としての金型代をどう扱うかであると言えます。
金型にはいわゆる成形品金型の他に、設計資産(機械、電気、ソフトウエアなど)、デザインなどを含むのが一般的です。プラットフォーム*と言い換えてもよいでしょう。大規模事業であれば、金型費を単一商品、単年度で償却することもできますが、規模が小さければそうはいきません。そこで、複数年度、複数商品にわたる拡大性、展開性が重要になるのですが、開発ロードマップに基づく新商品ラインナップ構築と商品企画に伴う「原価企画・創造」を徹底することが必須となります。ここでは、今まで工夫してきたアプローチを整理してご紹介します。 *商品やシステムを成り立たせ、カスタマイズも可能とするために必要な共通の土台(基盤)のこと。
アプローチ ① コンセプトをしっかり固める
商品性を誤らないためにはきちんとしたユーザー調査を行うことも重要です。プロセスの途中でコスト・金型代を下げる必要に迫られ、どの仕様を維持してどれを省くのか、その判断軸がブレてしまうことがよくあります。コンセプトとは、この商品が成立するための条件であり、迷った時に振り返って参照すべき指針でもあります。必ず言語化しておくことが大切であるのは以前の会報116号でも述べました。ユーザー調査結果も、取捨選択の判断時の物差しとなります。原価が創れずどうしても採算が合わない場合は、コンセプトの段階やユーザー調査結果に戻って検討する柔軟性も必要となります。
アプローチ ② 開発ロードマップと共通プラットフォームによる商品ラインナップ構築
開発ロードマップを明示するのは初期段階でやっておきたいことです。ポイントは、単一機種ごとに一から開発しないで済むよう、共通で活用できるプラットフォームの開発を企画すること、将来のバージョンアップも視野に入れて「仕込み」をし、商品ラインナップとして企画しておくことです。この計画がうまくできていないと、コスト以外のリソース(工数、時間)も余分にかかるようになってしまいます。
アプローチ ③ コスト(部品代、製造費)と金型償却単価の最適点を見つける
企画数量とラフなコスト・金型代が決まった後は、コスト低減と金型代低減のどちらがより採算性に影響が大きいかを認識することが重要です。前者の場合は投資に資金を使う(金型投資)ことで低減を図ります。後者の影響が大きい場合は簡易的な金型で製造する手段・素材を選択したり、新技術や製造工程の簡略化などの工夫、検討を行います。
誌面の都合で紹介できませんが、「金型の共通化を図る」というアプローチや、「既存事業のリソースを活用する」といったアプローチもあります。 製造業との関わりが薄い方には分かりづらい内容だったかもしれませんが、他の業界にも共通する部分のあるアプローチなので、直面する課題の解決ヒントになれば幸いです。
【吉江 裕子】
この記事へのコメントはありません。