
連載企画 バックオフィスを変える小さな改善 (4) セキュリティにご注意を!
これまでの連載でも取り上げた通り、近年では、業務改善のためのクラウドツールや業務支援アプリも豊富に出てきており、ITにあまり詳しくない企業でも、ちょっとした工夫で業務改善をスタートできる環境が整ってきました。紙で管理していた業務をデジタル化したり、社員間の連絡手段をメールからチャットツールに切り替えたりするだけでも、情報の流れがぐっとスムーズになります。
しかし、こうした「いい変化」には、実は少し注意が必要です。
1.業務改善で増える“見えないリスク”
業務改善を進めると、次のようなことが起きてきます。
- クラウドツールなどの導入により、どこでも・いつでも情報が見られるようになる
- 社員がスマートフォンやタブレットなど、複数の端末で業務を行うようになる
- 情報共有が活発になる一方で、個人情報や機密データの取り扱いが増える
- 業務フローが簡素化され、チェック体制が甘くなる
- 外部からのサイバー攻撃に対するリスクが高まる
つまり、「便利になった分だけ、リスクも増える」というわけです。特に重要なのは、情報の取り扱いです。誰が、いつ、どこで、どの端末を使って、どんな情報を閲覧・編集・削除・ダウンロードできるのか――これらを明確にしておかないと、知らない間に大事な情報が社外に公開されていた、という事態になりかねません。
2.情報漏洩は「信用」の問題に直結する
もし業務情報、特に顧客の個人情報が外に漏れてしまったら、その損失・影響範囲は大きなものです。企業イメージの悪化、お客様の信用を失い、取引先との関係にも悪影響が出て、最終的には売上の減少にもつながってしまう可能性があります。情報の適切な取り扱いは、企業の社会的信用を守ることに繋がるのです。
3.すぐにできる、セキュリティ対策
「今すぐ強固なセキュリティ対策を!」と言っても、企業規模によっては難しいのが現実です。対策の外部委託やソリューション導入は有益ですが、業務改善の推進がかえってコストや作業量を増やす原因にもなりかねません。大切なのは「最低限守るべきこと」を押さえて、できる対策を進めることです。
意外かもしれませんが、セキュリティ事故の多くは「人的ミス」が根本原因です。たとえば、パスワードの使い回し、USBの紛失、メールの誤送信――こうした日常の“うっかり”が、実は大きな事故につながっているのです。外部からのサイバー攻撃も脅威ですが、社内のルールや意識を整えるだけでも、多くのリスクは軽減できるのです。たとえば、クラウドツールのセキュリティ対策であれば、次のようなことはすぐにでも始められます。(これまでの連載でもお伝えした内容ですね。)
- ユーザーごとにアクセスできる情報を制限する(最小限の権限設定)
- IPアドレスや使用端末の制限をかける
- クラウドツールの初期セキュリティ設定を見直す
- 管理者の操作権限は一部の信頼できる人に絞る
- データの取り扱いルール(持ち出し・共有・削除など)を社内で明文化する
- パスワードの複雑化・定期変更を徹底する
- 社員向けにセキュリティ教育を行う
こうした対策の多くは、「設定を見直す」「ルールを決める」「周知する」といった、コストをかけずにできることばかりです。
4.新しいリスクにもご注意を
最近では、セキュリティリスクとは少し違うところで、新たな課題も出てきています。それが、SNSによる情報発信です。広報活動や顧客との関係強化のために、Twitter(現X)やInstagram、LINEなどの運用を行う企業も増えています。導入・運用のハードルが低い、スピード感を持った運用が可能、ユーザーとの距離感が近い、広域に発信できる等のメリットがある一方で、誤情報・不適切情報の発信による炎上、意図しない意味合いでの拡散といったリスクがあります。想定外に企業のイメージを傷つけてしまった事例は数多く、皆さんも耳にされたことがあるでしょう。それらの要因は単に運用者の不注意だけではありません。熱心な運用や発信内容(親しみやすさ、インパクト、話題性)を追求した結果、判断を誤ったケースもあります。他社の事例の収集や社内でのガイドライン作成なども検討しておくと安心です。
5.「怖いからやらない」ではなく、「リスクと上手に付き合う」
「業務改善を進めたら、セキュリティ対策も必要で…。結果的に現場のやることが増えた…。」本末転倒で冗談のようですが、実際によく聞く話です。ですが、「怖いからやらない」「面倒だから後回しにする」というのは、もっと危険な選択肢かもしれません。
大事なのは、リスク・対策・費用・業務の負荷のバランスをとって、無理のない範囲で上手に付き合っていくこと。「できることから着実に」始めることが、結果的に自社を守ることにつながります。「何から始めたらいいか分からない」という方は、IPA(情報処理推進機構)や経済産業省のホームページに、中小企業向けのセキュリティチェックリストやガイドが用意されていますので、ぜひ活用してみてください。
業務改善は会社にとって前向きな一歩。でも、その一歩を安心・安全なものにするためには、“守る仕組み”も一緒に考えることが大切です。今日できる小さな一歩から、未来につながる業務改善をはじめてみませんか?
【高木 明日香】
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