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連載企画第1回 資金調達支援に果たすべき診断士の役割ついて

はじめに

最近、小規模事業者様から資金調達の相談がありました。その方は、音楽教室を主宰されていますが、短期的には教室を維持するための運転資金、中期的にはWITHコロナを見据え動画配信など顧客獲得のため投資資金が必要になると予想しています。しかし、これまで借り入れの実績がない中、金融機関にどのように融資を申し込んだらよいか、見当がつかない様子でした。このように、いま、多くの事業者様が「初めての資金調達」の悩みを抱えていることと思います。

すでに、多くの診断士の皆様が資金調達に関してコンサルティングの場や行政の相談窓口等で大変忙しく対応されていますが、今も、各方面からの支援要請が増えつつあり診断士も人手不足のようです。そうした中で、副業とテレワークの浸透の下でフレキシビリティが向上した企業内診断士の皆様も新たに支援業務へ参画されるケースが多くなってきていると聞いております。

私自身は6月に勤務先をセミ・リタイヤし支援活動に取り組み始めたものです。そのため、支援者の目線で初めて学ぶこと・考えることが大変多い日々を過ごしています。

そこで、この機会に、金融機関との取引経験が少ない事業者様に資金調達についてアドバイスをする前提で、私なりに感じたこと・考えたことを整理してみました。

①そもそも、中小企業診断士に期待される役割は何か
②事業者様にはどのような心構えをお願いすればよいか
③新たに支援活動に取り組む診断士はどのような準備をすべきか

といった3点の切り口で私見をまとめてみます。業務経験不足と思考の未熟さが随所にみられると思いますが、皆様の支援活動の参考になる部分がすこしでもあれば幸いです。

1.事業運営と資金管理の橋渡し役

資金調達において本質的に重要かつ診断士に期待される役割は何か。事業者様が自ら解決することが難しく、診断士の能力が活かせる課題を考えたとき、「事業運営と資金管理の橋渡し役」というキーワードが思い浮かびました。

多くの事業者様が日々、事業継続に努力される中で、常に見ている経営指標は受注高と売上高でしょう。一方で、資金繰りについて、たとえば、以下のような質問に回答できる方はどれくらい、いらっしゃるでしょうか。

①1年先までの必要な資金量は?
②もし、売上が増加したら運転資金に余裕がでるのか、あるいは苦しくなるのだろうか?
③最終的に目標売上を達成したら内部調達(税後利益+減価償却費)を源泉に借入を返済できるか?

これらは私が考える資金管理の肝といえる質問です。事業者様は日々の現預金の出入りには細心の注意を払っていらっしゃる一方で、資金繰り表を作成しているのはせいぜい2-3割という実感があります。多くの事業者様は、資金繰りの先を読むことは苦手としていて、実際に金融機関との交渉の場では、こうした資金管理視点での質問に窮することがよくみられると聞いています。その原因のひとつに、日々の事業運営と資金の動きのズレがあります。

販売/出荷と売上債権回収時期のズレ、仕入と買入債務支払時期のズレ、生産リードタイムなど諸々の影響で、1年くらいの期間で見ると、ズレが蓄積・複雑化し受注の動向や日々の資金繰りの延長からの「感覚」では資金の動きは説明しきれなくなります。金融機関の融資審査での最大の関心事は返済の確実性ですから、精度の高い資金計画を策定し、同時に事業の変化がどのように必要資金量に影響するかシュミレーションできるように準備しておく必要があります。そこで、診断士は事業運営と資金管理の両方に目配りできるスキルを活かして、事業計画に紐づいた資金計画の策定を支援することができます。

たとえば、
①資金運用表の分析やCCC(キャッシュ・コンバージョン・サイクル)の把握によって売り上げ変化に対する運転資金の増減の方向性を予測する、
②設備投資の採算計画から中期の収支を予測し借入返済計画を策定する、
③現実的な借入可能額/返済計画を踏まえて事業が持続可能か検証する、等。

「事業運営と資金管理の橋渡し役」は、経営全般を診る診断士ならではの役割だと思います。

(*)計算式:CCC(日数)=売上債権回転日数+棚卸資産回転日数-買入債務回転日数
各回転日数はそれぞれの残高を1日当たりの売上高や売上原価で除した数値。仕入から販売代金を回収するまでの期間を示す指標。
収支改善施策の検討や売り上げ変化に対する運転資金増減の簡易的予測に用いられる。
CCCがマイナス       売上増大(減少)⇒運転資金需要が減る(増える)
CCCがプラス          売上増大(減少)⇒運転資金需要が増える(減る)
一般に、飲食店では販売減少で運転資金需要が増え資金繰りが逼迫するが、CCCは売上債権回転日数が小さいためマイナスとなっている。反対に、製造業では出荷が減少し工場稼働率が低下しても、短期的には資金不足に陥らない場合もあるが、CCCは棚卸資産回転日数が影響しプラスとなることが多い。

2.強みを明確化し説明する

次に、新規に借り入れを始める事業者様が多いという今の局面においては、「自社の強みを明確化し説明する」役割が事業者様に大変期待されると考えます。

中小企業への主要な貸し手である地域金融機関は個社と親密な関係を長期間にわたって継続し、決算書に表れない強みや事業特性を理解したうえで融資の判断を行います。しかし、コロナ感染の状況の中で、初めて金融機関に相談する事業者様からは、こうした伝統的な手法では信用情報を十分には取得できない場合もあるようです。一方で、日々悪化していく環境の中で事業者様自身も本来の強みを見失って、金融機関にアピールすることは難しいでしょう。そうした中で、経営の専門家として各種分析手法により事業を客観的に評価し事業者様自身が気づいていない強みを気づかせる診断士、さらに、強みを論理的に説明する能力のある診断士は事業者様にとって大きな力になるはずです。

3.スムーズに融資を受けるために

現在の厳しい景況感の下でも、金融機関は、事業者様への融資について最優先で取り組まれています。しかし、預金を預かる責任を全うするため、当然、審査は厳正に実施します。支援者である診断士はスムーズな融資を実現するために、あえて、事業者様側ではなく審査する立場で支援することが重要だと思います。そこで、審査する側の視点も踏まえ、私の気づきを、金融機関に初めて対面する事業者様にお願いしておく部分と、合わせて診断士、特に新たに支援活動に取り組む診断士が準備しておくべき点に整理します。

①社会的義務
まず、第一に、その事業者様が社会の一員として義務を果たしているかどうか、たとえば、税や社会保険料等をきちんと納付しているか、また、仮に義務を果たせない状況になったとしても、相手と真摯に対話をしてきたかどうか。社会的義務を果たしていないのであれば約定した貸金の返済を履行する意思が弱いと先入観を持たれてしまいます。支援先の事業者様には日ごろから社会的義務を履行するように促したいと思います。万一、過去に返済遅延の実績があるのであれば、金融機関との関係を修復するため当時の状況を明らかにし、その後の改善努力を説明できるように準備いただく必要があります。

一方、診断士はコロナ感染症対策の特例措置も含め税・社会保険料に関する義務、労務・賃金に関する義務、業種特有の義務、借入に伴う義務(元金・利息返済以外に決算書の継続開示等もあります)の基本知識は幅広く身に着けておかねばならないと思います。

②経理への関心
私の企業内での経験からいえることですが、経理に関心が低い事業者様、数字にルーズなところが窺える事業者様には貸金を適切に運用してもらえるかどうか不安になるものです。まず、大前提として、帳簿類・領収書・請求書・通帳等の経理資料を普段から保管・整備する習慣をつけていただくように促します。次に、決算書の精度を上げていただくこと。過去の決算書にざっと目を通し、事業の実態と照らし合わせ納得できない点は質問したいと思います。たとえば、税金の引当処理、開発費の資産残高、不動・過剰在庫品の評価、回収が遅延している売掛金の評価などは特に注意を要するところではないでしょうか。 事業の実態を知る診断士は、税理士など会計専門家の皆様とは異なる視点で財務諸表を診ることができます。その前提として、診断士は中小企業における財務諸表の特性、業種別の特性を理解しておく必要があると思います

③事業性評価への姿勢
一時的にコロナ影響で苦しくても、基本的に収益・キャッシュフローの見込める事業であるかどうか、まず、事業者様に自ら厳しく事業性の評価をしていただくようにお願いします。そのうえで、もし、事業性に疑義があれば、たとえばコロナ対応の新規ビジネスモデル等による販売施策やテレワーク等による経費抑制施策を計画に上乗せする方向で再検討を促し、さらに顧客や仕入先から決済条件の見直しを含めたご協力や、事業者様からの追加資金拠出の可能性などを検討いただきます。一方で、もし、コロナの影響が仮になくても長期間にわたって、どうやっても構造的に採算がとれない等、独力での存続が困難と想定されるのであれば、金融機関から融資を断られる可能性も考え、取引先・従業員への影響を最小限にとどめるべく、余力のある段階での事業再生/事業終息等の検討も促します。

診断士が上述のように事業性評価において助言するためには、以下の3つの知識・スキルを高い水準で磨いておく必要があると思います。

(ア)個社の事業環境についての最新の知識
(イ)戦略・事業計画策定に関する一般的スキル
(ウ)事業者様と真摯に向き合うためのコミュニケーション・スキル

先に、診断士に期待される役割として「1.事業運営と資金管理の橋渡し役」「2.強みを明確化し説明する」を掲げましたが、上記3項目はこうした役割を果たすためにも必須のものだと思います。

おわりに

以上、金融機関との取引経験が少ない事業者様に資金調達についてアドバイスする前提で、診断士の役割・事業者様へのお願い事項・新たに支援活動を行う診断士の準備といった切り口で整理いたしました。ここまで読了された方々に感謝いたします。

コロナ対策融資制度が拡充され、平時であれば融資を受けるのが難しいようなケースでも対応していただける場合もあるようです。だからこそ、融資は受けたら終わりではなく、診断士は資金の運用/実行段階まで事業者様を支え続けていくべきと強調したいと思います。そうした立場で資金調達をサポートすれば事業計画の精度は向上しますし、また事業者様も診断士を信頼し実行に向かって最大の努力を払われ計画実現の可能性は高まります。私も微力ながら、事業者様に寄り添って診断士の社会的役割を果たしていきたいと思っております。

【宮村 康彦】

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