
連載企画 儲けの出る製造業のカイゼン活動 (3)小ロット化の目的
儲けの出る製造業のカイゼン活動の連載の第3回目は小ロット化の目的について実際に製造工場でカイゼンに取組んできた生産技術者としての経験を踏まえ考察していきます。
小ロット化の目的とは
まず小ロットのメリットデメリットですが詳細はAIに譲るとして概ね以下の点が挙げられます。
メリットは、①在庫リスクの低減として保管コストの削減、②需要変動への柔軟性向上、③顧客ニーズへの迅速な対応が可能になりトレンドや市場の変化に適応しやすくなる、④品質問題の影響を最小限に抑えられる、⑤製造プロセスの効率化生産サイクルが短くなることで、改善やフィードバックを早く得られるなどがあります。
デメリットは、①セットアップや切り替え作業が頻繁に発生し製造コストの悪化、②製造プロセスの複雑化による管理負担の増加、③納期遅延のリスク、④頻繁な切り替え作業により、設定ミスやトラブルが発生しやすくなり品質の一貫性確保が難しい、⑤サプライチェーンの負担原材料の調達や管理が複雑化し、調達コストが増加する場合があるなどが挙げられます。
製造現場ではよくデメリットを逆手にとって、小ロット化を目的としてセットアップ時間の短縮やチョコ停止を改善するという取り組みが行われているところも多いかと思います。これらの活動自体はとても大事なことではありますが、手段が目的化してしまっています。小ロット化の本来の目的は売上が上がるかどうかということになります。
ではなぜ小ロット化で売上が上がるのかですが、メリットにもあるように急な客先からの依頼に応えることにより受注量をあげることができる、または急な欠品に対応して機会損失を抑えることができるなどで企業の実力をあげることで現在よりもより売上げをあげられるチャンスが高くなります。
客先も在庫を抱えたくない場合も多いこと考えられるため大ロットでの納品が必ずしも必要でないときもあります。十分に顧客と情報を取り合い、戦略を練ることが重要になってきます。しかしながら在庫を持てばわざわざ小ロットにする必要はないと考えるのは普通だと思われます。
在庫は借金?
少し古い本ですが田辺昇一氏の「経営の赤信号」昭和36年第1刷発行の71頁で「たな卸し資産とは、借入金という名の資産である」と表現されています。言い得て妙な表現であると思っています。利息は何かというとそうに保管する費用などであると考えられます。
では借金の中身は何かというと売れ残った製品に掛かっていた製造コストで原材料費や直接人件費や間接人件費などが含まれています。当然先に発注した原料も借金にあたります。ここで注意したいのはPLにある製造原価はその当月製造に掛かったコストのことではなく売れたものに対する製造コストのことであるため、製品が売れず在庫が積みあがる状態だと当月のPLでは製造原価は少なくなり、利益が多く出るが支払いは不変という勘定あって銭足らずの状態になります。在庫を多く持つというのは借金をして儲けを狙う為、リスクが高くなります。

小ロット化すると原価は悪化する?
TOC理論を考案したエリヤフ・ゴールドラット氏のザ・ゴール(コミック版)の終盤に出てくるセリフでコストは上がったが利益が増えたという件があります。文献ではないので、かなりのバックグランドを丸めて表現されていると思われますが、一つの例として上図の簡単な図式で原価だけ切り取ってみると小ロット化で売り上げが増える分(売上の計上が早くなる)、原価は悪くなるように見えるパターンも考えられます。
原価=コストの考えだとコストは上がっているのに利益が増えるちょっと不思議な事象が起きる可能性があります。逆に大ロット化で設備稼働率を上げて産出量を増やすというのも戦略の一つだと思いますが、在庫が積みあがる分、PL上の原価はかなり改善されてしまうことになる可能性もあります。
これは生産の時間効率の向上ももちろんありますがPL上で原価の動きを見てしまうと在庫量の増減の方が動く金額が大きくなり改善の進捗が見えにくくなってします。必要な管理会計をしっかりと行い、改善を評価していくことが重要となってきます。
次回はスループットをだすカイゼンと簡易指標について考察します。
【松田 陽介】
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