連載企画 流通・物流・運送業に明日はあるのか? (1)
はじめまして。川村と申します。2024年(令和6年)に中小企業診断士登録いたしました。卸売業に勤めており、これまで主に営業職・物流職・企画職として現場責任者を経験してきました。今般社会ニュースで「日本郵便の点呼不備問題」「コメ不足問題」「医療用医薬品不足による医薬品卸の疲弊」「航空大手2社が26年3月期通期の国内路線は営業赤字転落予想」「JR東日本運賃改定(2026年春頃値上げ)」などの公共インフラに関するものを見聞きします。今回、機会を頂き「流通・物流・貨物運送・旅客輸送の視点」から1年間4回の連載を担当します。どうぞよろしくお願いします。
1.「送料無料表示の功罪」
販売戦略の一つとして、自社で製造・販売を行う店舗では、価格競争を避けるために値引きを行わず、「自社製品のおまけ」を添えることで、購入者に“おトク感”を提供する手法があります。これは製造コストの範囲内で対応でき、利益率を維持しやすいメリットがあります。
さらに、おまけを試供品として活用すれば、新製品に対する顧客の反応を把握でき、次回以降の購入につなげるプロモーション効果も期待できます。
同様のアプローチとして、「送料無料」と表示する販売戦略があります。たとえ実際には販売者側が送料を負担していたとしても、購入者に“安売り”の印象を与えることなく、購買意欲を高めることができます。購入者は「送料無料」は、「わかりやすい」「おトク感がある」「サービスされている」といった良い印象を受けます。こうした心理的効果により、販売者・購入者の双方にとって有効な戦略です。
しかしながら、「送料無料表示」は、「物流・流通・貨物運送業界」に対して「配送は無料で当然」「運送は付加サービスにすぎない」といった誤解を生じさせるリスクがあります。
2.「2024年物流問題」~「誰がどこで何を負担しているのか」~
近年「2024年物流問題」として認識が高まり改善されてきておりますが、それでもなお、物流・流通・貨物輸送・旅客輸送の現場では、実際の負担が見えにくいまま積み重なっているのが現状です。
宅配ドライバーの人手不足や再配達の増加といった現場の深刻な課題に対する理解を妨げ、物流の「価値」や「負担」を社会的に認識しにくくしています。そして、見えにくいコストの「不可視化」がもたらす大きな問題となっています。
経済産業省は2021年に「送料適正表示ガイドライン」を公表し、大手ECサイトも、「送料別」「送料込み」「条件付き送料無料」の3パターンを明確に区別するなど、送料表示の適正化に向けた取り組みをしています。
消費者庁も「2024年問題」や「送料無料表示」に関して、たとえ消費者の負担がゼロであっても、実際には事業者が費用を負担しており、「誤解を招く表示である」と警鐘を鳴らしています。国土交通省は「物流の2024年問題」への対応として、再配達削減に向けた取り組みを関係各所に要請しています。具体的には、「時間帯指定の徹底」「コンビニ受け取り・宅配ロッカーの導入」など、多様な受け取り手段の活用が推進しています。
私たち中小企業診断士は、単なる価格戦略やコスト削減という表層的な視点にとどまらず、「誰が、どこで、何を負担しているのか」「それが経営や現場にどう影響しているのか」といった構造的課題を、支援先企業と販売戦略のなかで共有していく責務があります。「送料無料」は、実際には無料ではなく、必ず誰かがその送料を負担しています。
「安さこそ正義」とする価値観が過剰になると、物流事業者が本来得るべき対価を奪い、利用者が知らず知らずのうちにその搾取構造に加担してしまう危険があります。
3.「日本郵便点呼不備」の影響
日本郵便で発覚した「点呼不備問題」は国内最大級の輸送インフラ企業における法令違反であり、到底看過できない出来事です。今回の「運送事業免許取り消し」は大口顧客の集荷と一部運送用のトラックやバン等の2,500台であり、配送への影響は限定的であると発表されています。軽四輪による配達では日本郵便が取り扱う荷物の一部は個人事業主などへ委託して配送が行われています。他の大手運送会社でもドライバーや配達員に余裕がなく、疲弊している状況であり、こうした構造的な課題が、現在社会問題化している「物流2024年問題」の本質です。日本郵便の事例では、「コンプライアンス遵守」より業務優先であり、点呼のIT化の遅れや、EC市場の急成長に伴う荷物量の増加が、現場に深刻な負担を与えていたことが推測されます。また、個人事業主など委託先への荷物1個あたりの金額提示額が低すぎることです。そのため経営に余裕がなく、点呼時間は収益がなく、点呼コストがかかることから、配達優先主義のビジネス構造になっています。利用者側も対価のあり方を考える時代であり、運送・配達業に従事する従業員側は意識改革が必要です。個人事業主であってもコンプライアンス違反をすると会社の信用を失墜して倒産(自己破産)する時代であることを認識する必要があります。

4.「業務前自動点呼」と「事業者間遠隔点呼」解禁
国土交通省は2025年4月30日より「対面による点呼と同等の効果を有するものとして国土交通大臣が定める方法を定める告示の一部を改正する告示」(令和7年国土交通省告示第347号、以下『改正点呼告示』といいます。)を公布、施行し「業務前自動点呼」と「事業者間遠隔点呼」が解禁となりました。
私は運行管理者の資格を有し、運行管理者補補助として「業務前点呼」および「業務終了時点呼」に従事した経験があります。

「業務前点呼」では、複数人の運行管理者が毎日同じ時間帯に出勤する百数十名の配達員の出勤打刻と免許証確認を行い、その後、複数のアルコール検知器で検査をするため長蛇の列ができていました。全員の点呼が終了後に、全体朝礼を行い、続いて荷物の積込作業に移りますが、出発が遅れることもありました。ドライバーや配達員は「天候の変化」や「交通渋滞」「配達先不在対応」などの不確実性がある中で、定刻に到着してお届けする使命感があります。そのため、「少しでも早く出発したい」「安全運転を心がけたい」「急ぐことでの誤配や破損を防ぎたい」ため、早期出発をしたい気持ちをもっています。配送業務の経験がある方であれば、「安全運転で落ち着いて業務を遂行するには、時間的余裕が不可欠である」ことは理解していただけると思います。実質的な業務前自動点呼の現場導入は、機器不足などもありこれから導入が始まるようです。運行管理者の負担低減が期待されていますが、今夏猛暑の中、荷物を届けてくださるドライバーや配送員の労働環境が早く整うことを願うばかりです。

【川村 昇】




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