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(連載企画) 中小企業のSDGs戦略 第2回 心理的安全性の活用

中小企業のSDGs(Sustainable Development Goals=持続可能な開発目標)に関する戦略についての連載2回目。今回は、「心理的安全性」を活用した人材戦略について、鳥取県の中小企業診断士の取り組みを交えて紹介します。

■スポーツ界で威力を発揮

「心理的安全性(Psychological Safety)」とは、ハーバード大で組織行動学を研究するエイミー・C・エドモンドソン教授が1999年に提唱した概念で、「チームの中で自分の考えや気持ちを安心して発言でき、他のメンバーが自分の発言を拒絶したり、罰したりしないと確信できる状態」を指します。

米グーグル社は、効果的なチーム構成のあり方を模索する労働改革プロジェクト「アリストテレス」を2012年に立ち上げ、約4年かけて検証しましたが、生産性が高いチームでは「心理的安全性」も高いという結果となり、これにより「心理的安全性」の概念が広まりました。

新聞データベースで検索してみると、日本で「心理的安全性」という言葉が使われ出したのは、2018年夏のサッカーのワールドカップ・ロシア大会からのようです。

ハリルホジッチ前監督の解任で、急きょ司令官となった西野朗監督は、事前の低評価を覆し、1次リーグを突破してベスト16入り。西野監督は選手との対話を重視するやり方を選び、選手も積極的に戦術などを議論するようになり、あるコンサルタントは「西野監督は、チームが潜在能力を発揮する上で欠かせない『心理的安全性』を与えたのではないか」と評しました。

今年3月、野球のWBCで世界一になった侍ジャパンも、栗山監督の下、率直な対話をしたり、弱みも見せ合うような関係性を構築したりすることで、お互いを高め合ったことがチームの強さにつながったと言われました。つい最近も、週刊東洋経済が「慶応の甲子園優勝は『心理的安全性』で理解できる」(9月2日号)でとの見出しで、「心理的安全性」の特集を組んでいます。

 オフィスで生まれた概念ですが、スポーツなど、様々な「チーム」にも応用できるわけです。

■SDGsとの関係は?

企業研修などを手掛ける石井遼介氏は、ベストセラーとなった著書「心理的安全性のつくりかた」(2020年、日本能率協会マネジメントセンター)で、日本の職場では、①話しやすさ②助け合い③挑戦④新奇歓迎――の四つの因子があるとき、「心理的安全性が感じられる」としています。

このうち特に重要なのが「新奇歓迎」で、「役割に応じて、強みや個性を発揮するこが歓迎されている」「常識にとらわれず、さまざまな視点やものの見方を持ち込むことが歓迎される」因子だといいます。一人ひとりは本質的に違い、価値観も違っていいという前提に立っています。

そして、「新奇歓迎」は、SDGsのテーマである「多様性(ダイバーシティ)と包摂」とも深い関わりがあり、SDGsの基本理念である「誰一人取り残さない」という目標に到達するためにも、重要性が高い項目だとしています。

SDGsの目標群には、「【目標8】働きがいも経済成長も」「【目標10】人や国の不平等をなくそう」がありますが、これらを達成するためにも、従業員の「心理的安全性」を高めることが重要です。

■鳥取、島根の企業が取り組むPDGs

鳥取、島根両県の41の企業は2022年5月、安心して働ける職場作りを進める「PSGs(Psychological Safety Goals=心理的安全性目標実行委員会)」を設立しました。2030年までに、

①全社員に1on1(上司と部下が一対一で行う面談)を実施して心理的安全性の高い組織をつくる
②社員一人ひとりの価値観、個性を大切にしてダイバーシティ(多様性)を実現する
③社員一人ひとりの人生に寄り添い、組織としてキャリア形成を支援する
④全社員にとって「働きがいのある職場」をつくる
⑤組織のミッション達成に全社員が「やりがいと誇り」を持つ組織をつくる

という五つの目標を通じて、「心理的安全性」の高い職場を目指すとしています。参加した企業は「心理的安全な職場づくり宣言書」(写真は次頁)を職場に掲げるなどして、社内の人材戦略とします。

この活動を提唱し、実行委員会の事務局長を務めるのが、鳥取県中小企業診断士協会の遠藤彰会長です。人材育成サービス会社「BEANS」代表取締役CEOも務める遠藤会長は、「多くの企業がSDGsを経営計画に盛り込んでいます。SDGsの理念である『誰一人取り残されない』に世界中で取り組むことも大切ですが、一方で、まず足元を考えること、自らの社内に『取り残された人をつくらない』ことも必要だと考えて、この活動を始めました」といいます。

■Z世代に対応したマネジメント必要

その背景にあるものとして、若者の価値観の多様化やワークスタイルの変化を挙げます。

「今の企業は『昭和のOS(オペレーションシステム)』、つまりトップダウンのマネジメントで回っています。平成まではそれでもよかったのですが、令和のZ世代はそれではマネジメントができない」として、「一人ひとりの個性や価値観に寄り添った『令和のOS』への変革が必要です」と提唱し、「組織のミッション、ビジョンに向けて建設的な意見が言える組織を作ることが大事」だと訴えています。

PSGsの加盟社は現在52企業に増加。「組織風土を変えようとすると、一社一社だけでは反発もあります。一つの大きな運動を山陰の2県から発信していきたい」と組織化の理由を説明しています。

今後は、人材の採用難に悩んでいる地元企業と高校生の出会いの場となる交流スペースを作ることも検討しており、遠藤会長は「1on1をやっていること、心理的安全性を推進していることを採用のアドバンテージにもしていきたい」と抱負を語ってくれました。

※中小企業診断協会が11月2日(木)に東京ガーデンパレスで開く「中小企業経営診断シンポジウム」では、遠藤会長が「第1分科会 経営革新支援事例」で「心理的安全性が組織の生産性を高める」を発表する予定です。                                            

【遠田 昌明】

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