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(連載企画)トレンドを見据えた成長戦略(第1回)セミを英語で紹介できますか?

 1社の企業努力だけではどうしようもない外部環境の変化がある事は、コロナ禍が突き付けた、厳然とした事実の1つです。そして今、ロシアのウクライナ侵攻を契機に、外部環境の大きなうねりは収束するどころか益々激しさを増しています。中小を含む全ての企業には、こうした外部環境の変化・トレンドに沿った戦略が求められます。

訪日客への期待

 国内外の金利差の拡大がもたらした急激な円安は、輸入原材料の高騰等の恰好で、多くの企業に影響を与えています。今の円安がいつまで続くかは別として、急激な為替変動の影響を抑えるべく、為替に中立になれないか、様々な企業が知恵を絞っています。飲食店の様なB2Cの場合、その方策の1つに訪日客を増やす事が挙げられます。材料輸入先の国からの訪日客相手であれば、為替による価格高騰も受け入れられやすいハズです。コロナ禍が未だ終息していないうちから、以前の様な客数や爆買いを期待するのは先走りしすぎでしょうが、安上りな海外旅行先としての日本の魅力は増しているのは間違いなく、これからの盛り上がりには期待したいものです。ただし、総論として期待大の訪日客も、彼らの取込みの成否は、言うまでもなく個別企業の戦略、対応力次第です。

狼はウルフと習ったけれど

 「あのうるさい鳴き声は何か?」これは、炎天下の皇居東御苑の芝生の上で、訪日客から何度も受けた質問です。私は7年程前から英語ガイドのボランティアをしています。最盛期には一回30人もの訪日客グループを案内してきました。その活動の中で、訪日客の多くがセミの鳴き声に慣れていないことを知りました。セミをどう英訳(cicada)したらいいのか。虫(bug)と一括りする事も可能ですが、セミが鳴かない日本の夏はありませんし、単なる虫以上の意味を持つ事も多いです。でも英訳できない。学生時代、私達は英語を学びました。狼がWolfなのは早い段階で学びます。でも赤ずきんの絵本を除けば、実際に我々が狼を目にする事は殆どありません。他方、セミを英語で何というかは、キワモノのクイズとしてしか受け止められません。これは何を意味するのか?日本人が英語を習得する大きな目的が、海外に出張して、日本製のモノを海外に輸出する、そんなシーンを想定しているからではないでしょうか。だからセミより狼、神社(Shrine)より教会(Church)を優先し、日本車の名前もSakuraよりもはるか以前からSkylineだったんではないか、と思います。

日本人はジャズが好き?

 「何で日本人はそんなにジャズが好きなんだ?」これもガイド中に受けた質問です。日本料理を食べに行っても、蕎麦屋に行っても、BGMはジャズばかり。日本人は本当にジャズ好きなんだな、と質問した英国人男性は感嘆していました。実際の所は好きだからというよりカッコいいから、という感じではないかと思いますが、注意してみると、確かにジャズを流す店は多いです。彼は続けました。「日本人が普段聞く様な、日本の曲を聞きたいんだけど、どこで聞けるの?」成程、街中の商店街が大音量で歌謡曲を流していたのは昔の話で、今やパチンコ屋さん位しか無いのかもしれません。返答に窮したのを覚えています。これらのエピソードは、私達が海外に行く事を専ら想定し、海外のカッコいいものを国内で真似る事を長く実践してきた事を示していると思います。

訪日客対応に求められること

 訪日客に活路を見出そうとする事業者は多いと思います。訪日客を取り込む上で最も重要なのは、彼らとコミュニケーションを取る事です。はるばる日本に来て、折角お店に来てくれた彼らの好奇心や期待に寄り添う事は、コミュニケーションを円滑にする上でとても大事です。但し、標題と矛盾するようですが、そのためにセミの英訳を覚える必要はありません。それは自動翻訳機がやってくれるでしょう。ただ、セミや邦楽含めて日本の魅力や地域の特徴についての自分の考えを確り持つ事、その中で自社の製品・サービスはどういう意味合いがあるのか、ストーリーとして表現しようとする事が大事だと思います。それは事業者にしかできない事です。コロナ禍で一旦仕切り直しになったのを契機として、自分達がどういう想いで訪日客に向き合うのかを考える、今はその好機なんだと思います。

【小泉 孝朗】

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