協会活動のご案内

  1. HOME
  2. ブログ
  3. 会報
  4. 連載企画 流通・物流・運送業に明日はあるのか? (3)

連載企画 流通・物流・運送業に明日はあるのか? (3)

本連載では、第1回で「送料無料」という販売戦略が、販売者・購入者の双方にとって有効な戦略である一方、物流・運送企業の持続可能性を損ねる「送料無料表示の功罪」について述べました。第2回では、「公益性が高く、移動コストを下げることが求められ、利益を確保しづらい産業構造」について論じました。第3回となる本稿では、構造的に値上げが難しい分野として医療、とりわけ薬価制度・医薬品供給不安の長期化に苦慮している医薬品卸売業の物流持続可能性について述べていきます。

医療現場の経営状況は赤字で厳しい

政府は2026年度診療報酬改定において全体で約2.22%の引き上げを決定しました。(2026年度改定は2025年12月に合意)。この内訳では診療報酬(医療本体)が主に人件費を反映する部分で年度平均3.09%のプラス改定となる一方、薬価(医薬品価格)は0.87%の引き下げが予定されています。

診療報酬のプラス改定は実に30年ぶりの大幅改善となります。昨今、急激な物価高騰・人件費上昇が見られる中、診療報酬の改定がこれらの社会情勢に追いついておらず、医科・歯科医療機関及び薬局等は経営状況が著しく逼迫しており、閉院や倒産が過去最多のペースとなっています。

病院の約7割、診療所の約4割、歯科診療所・薬局の約3割が赤字であり、この状況は、かつてない異常事態であり、今回の診療報酬のプラス改定は緊急対応でありこの程度の対応では不十分との指摘があがっています。

医薬品物流は「限定された公益物流」である

医薬品卸は、製薬製造販売メーカーから医薬品を仕入れ、全国の医療機関に安定供給する役割を担っています。一般消費財の物流と異なり、「決まったメーカーから仕入れ、決まった医療機関へ届ける」という限定流通が基本であり、誰もが自由に依頼できるオープンな物流ではありません。

また、医薬品は生命関連商品であり、医薬品の適正流通(GDP)ガイドラインに準拠すること、つまり「品質の確保・温度管理」「流通過程の適正管理」「偽造医薬品対策」を行っています。従業員教育をしっかり行い、温度管理、品質管理、トレーサビリティが厳格に求められています。

また、災害時や感染症流行時にも供給を止めることが許されない点で、医薬品物流は極めて公益性の高いインフラにあたります。

薬価制度と医療費抑制政策

日本は国民皆保険制度を採用しています。大病院等への受診時には、かかりつけ医からの紹介状が必要であり、紹介状がなければ選定療養費を支払うことで実質的には価格シグナルで調整される制約はあるもののフリーアクセスを維持しており、調剤薬局に処方箋を持参すれば、どの医療機関の処方箋であっても対応してくれます。

保険適用である処方箋は国が定める「薬価」が設定されています。患者が処方箋を薬局窓口で支払う薬代(1~3割負担)は、この薬価を基準に算定されています。一方、医療機関や調剤薬局が医薬品卸から医薬品を購入する価格は自由競争であり、安く仕入れられれば薬価との差額(薬価差益)が収益となる仕組みとなっています。

日本は少子高齢化の進展により医療費は増大を続けており、2024年度の概算医療費は48兆円に達し、その約4割は後期高齢者医療が占めています。後期高齢者医療の財源は、税金が約5割、現役世代が約4割、高齢者本人が約1割を負担しており、現役世代への負担は年々重くなっています。そのため国は長年にわたり、社会保障費の増加を抑制するため医療費抑制も行っています。

薬価の引き下げ、中間年薬価改定(2年に1回から毎年薬価改定を実施)、市場拡大再算定の特例、長期収載品からジェネリック医薬品への切り替え促進等の施策を重ねてきています。

ジェネリック医薬品80%政策と供給不安定の長期化

ジェネリック医薬品の使用割合は政策目標の80%を超え、直近では数量ベースで90%を上回る水準に達しています。一見すると医療費抑制は順調に進んでいるように見えますが、その裏で供給不安定という深刻な問題が顕在化しています。

コロナ禍による世界的なサプライチェーン混乱、原料不足、品質問題や行政処分による製造・出荷停止が発端での供給不足も重なり、さらに製薬製造販売メーカーが増えたことで原料が分散したこともあり、出荷調整や出荷停止が相次いでいます。

一つの製薬製造販売メーカーの医薬品供給が止まると、代替薬に需要が集中し、次の不足を招く「ドミノ倒し」が発生しています。十分な利益を確保できない中で、製薬製造販売メーカーは設備投資や増産にも踏み切れず、結果として供給不安定の状態が長期化しています。水面下では、ジェネリック医薬品メーカー間での協業が検討されており、安定供給への道を模索しています。

医薬品卸と医療現場に集中する負担

製薬製造販売メーカーと医療機関の間にいる医薬品卸は負担が増しています。医療機関からの供給問い合わせは増えて、緊急配送や調整対応でコストは膨らむ中で、「生命関連品であり供給して当たり前」という認識のもと、あまり感謝されることはなく、薬価引き下げを背景に価格引き下げ要請は強まっています。

医薬品卸の仕入価格は薬価ほど下がらない状態で医薬品卸内でも人件費、車両費、燃料費は上昇しており、結果として利益率も維持できず、既存事業の利益額は大幅に減少しています。医療現場では供給不安定の長期化の中で薬剤師が医師と連携し代替薬を提案していますが、現場対応には限界があります。

また、医療機関では、供給確認のための納期確認業務が増加し、安心在庫として在庫積み増しをせざるを得ず、キャッシュフローの悪化や期限切れ廃棄コストのリスクも抱えるなど、経営をさらに圧迫させています。

薬価差に依存しない経営への転換

日本製薬団体連合会(日薬連)は薬価差が果たしている役割を明確にしたうえで、必要分を診療報酬・調剤報酬の中で評価することも検討が必要と表明しています。かつては「薬価差を確保し、処方量を増やせば収益が上がる構造」が存在していました。しかし現在は、診療報酬(技術料)で収益を確保し、薬価差に依存しない経営へと変わる必要があります。

医薬品卸側では、物流センターのDX化を図りコスト削減を進めています。また、物流部門を子会社化や別会社化して特定貨物自動車運送事業や一般貨物自動車運送事業として、物流・運送業としての黒字化を目指す動きがあります。また新たな収益確保の取り組みを行っています。希少疾病(国内患者数が5万人未満)用医薬品や、バイオ医薬品などのスペシャリティ医薬品流通の強化や高度な温度管理・トレーサビリティが必要な製品の受託流通事業を行い高付加価値物流による利益確保を急いでいます。

それ以外にも医療機器、診断薬、医療材料、在宅医療関連など、薬価の影響を受けにくい分野への拡大や、女性疾患領域に特化したウィメンズコーディネーター(ヘルスグループ)の活動、地域包括ケアシステムの構築、地域の健康・医療の発展への貢献活動、デジタル・ヘルスケア分野におけるICT企業との協業による医療機関へのIT・DX化へのサポート対応等、各社でそれぞれ取り組みが進んでいます。

おわりに――持続可能性をどう評価するか

薬価の引き上げは、患者負担の増加という現実的な影響を伴います。そのため、制度の持続性と国民負担のバランスをどこに見いだすのかは、避けて通れません。とりわけ、医療上の必要性が高い基礎的医薬品については、安定供給の確保に加え、国家安全保障の観点からも、国内生産体制を維持・構築できる環境整備が求められます。そのためには、原材料費や人件費の上昇といったコスト構造を踏まえ、経済合理性のある薬価を確保できる仕組みが不可欠になります。

現在、基礎的医薬品、不採算品再算定、最低薬価といった「薬価を下支えするルール」の整備が進められており、不採算品再算定については特例的な薬価引き上げも実施されています。足元で顕在化しているドラッグ・ラグ/ドラッグ・ロスや医薬品供給不安への対応として、実効性あるものとするための運用改善やルールの見直しは、喫緊の課題と言えます。薬価制度改革および費用対効果評価制度を巡る議論は、複数年度にわたり継続しており、2026年度に向けては、費用対効果評価制度の検証や再算定ルールの見直しを含む改革の方向性が示されています。

今後は、医療の価値、供給の持続可能性、国民負担の在り方を個別に捉えるのではなく、全体としてどう整合させるかが問われる段階に入っています。私たちは、自己負担が抑えられ、必要な医療を受けられる制度の恩恵を享受しています。医療制度を静かに支えているのが、医薬品の流通・物流という社会インフラです。製薬製造販売メーカーが医薬品を安定供給して、医薬品卸が医療機関に医薬品を届けなければ必要な治療を受けることができません。制度を将来にわたり持続させるためには、医療そのものだけでなく、供給を支える仕組みの価値を正しく評価し、可視化していく視点が不可欠となります。 

【川村 昇】

  • コメント ( 0 )

  • トラックバックは利用できません。

  1. この記事へのコメントはありません。

関連記事

活動のご報告