連載企画 流通・物流・運送業に明日はあるのか? (4)
流通・物流・運送業は今、大きな転換点を迎えています。本連載では一貫して、「流通・物流・運送業に明日はあるのか」という問いを軸に検討してきました。共通する本質は、「運ぶコスト」が適切に評価されず、特定の主体に偏って負担されてきた構造にあります。本稿では、中小企業診断士に求められる視点を述べます。
運賃上昇による構造変化
これまで企業努力で吸収されてきたコストが、価格として顕在化し始めています。JR東日本は2026年3月、消費税増税分を除けば約40年ぶりとなる運賃改定を実施しました。中東情勢の悪化による燃油価格高騰を背景に、航空会社では国際線の燃油サーチャージ引き上げに加え、2027年には国内線への導入も検討されています。
もはや「安く運ぶこと」を前提としたビジネスモデルは限界に達し、利用者が適正なコストを負担する時代へと移行しています。
価値に見合ったコスト負担の在り方
航空機は観光や出張で利用されますが、その前提は「安全最優先」です。天候の影響を受ける不確実性の高い環境下でも定時発着が維持されている背景には、運航・整備・地上支援・バックオフィスまで含めた組織全体の連携があります。こうした総合力によって、安心・快適な移動サービスが実現されています。
また航空貨物は高度な温度管理が可能であり、医薬品や生鮮食品といった高付加価値商品の輸送を支えています。加えて、モーダルシフトの一環として、鉄道や航空を活用した貨物輸送も拡大しています。新幹線の貨客混載を進め、鉄道と航空を組み合わせた輸送サービスも開始しました。
「人を運ぶインフラ」は「物も運ぶ社会基盤」へと進化しています。こうした変化を踏まえ、価値に見合ったコスト負担の在り方が問われています。
食と物流における不確実性
農業もまた、天候による不確実性という課題を抱えています。気温や降雨量の影響により収穫量や品質が変動する中、安定供給を実現するには、流通・物流による保管・調整機能が不可欠です。食品流通では、消費期限と温度管理が求められます。品質維持機能を伴うインフラであるため、コールドチェーンの維持コストは増大しています。
農産物流通の構造転換も進んでいます。従来は農協(JA)が中心でしたが、その比率は約4割に低下しています。その背景には、農家と企業の直接取引の拡大や、直売所・道の駅を通じた「顔の見える販売」が進み、生産者は適正価格での販売機会を広げています。
一方で、流通経路の多様化により流通在庫の把握が困難となり、コメ不足問題の一因とも指摘されています。
中小企業に求められる戦略転換
求められるのは、物流を含めた全体最適の中で付加価値を設計することです。具体例として、食の6次産業化(1次(生産)×2次(加工)×3次(販売))があります。自社ですべてを完結させる必要はありません。中小企業同士が役割分担を行い、農業者・加工業者・物流事業者・小売業者が連携することで、持続可能な関係を構築できます。農商工連携により、地域全体で価値を創出する視点が重要です。
また、都市型農業や地産地消は輸送距離を短縮し、物流負担を抑えつつ鮮度や地域性という付加価値を高めます。「運ばない価値」を体感する消費行動も重要になります。
二層構造と診断士の役割
すべてを地産地消で賄うことはできないため、幹線輸送は鉄道・航空によるモーダルシフトで効率化し、地域内流通で付加価値を高める「二層構造」が必要です。これを実現するには、診断士がサプライチェーン全体を俯瞰し、コスト構造と付加価値を可視化した上で、適正な価格転嫁と役割分担を設計することが求められます。
さらに共通配送や共同在庫、マイクロハブの構築により、効率と価値向上の両立を図ることも重要です。加えて、地域密着型の物流事業者は、ラストワンマイルを担う存在として重要性が高まっており、「運び手」から「地域価値をつなぐ担い手」への進化が期待されます。
最後に ― 問いへの答え
では、本連載の問いである「流通・物流・運送業に明日はあるのか?
その答えは、「あります」。ただし、それは従来の延長線上にはありません。
本連載で見てきた通り、「運ぶコスト」が適切に評価されず、特定の主体に偏って負担されてきた構造は、もはや持続しません。適正な負担と価値の再配分を実現し、サプライチェーン全体で最適化できる企業とネットワークには、確かな未来があります。
中小企業診断士は、その構造転換を支える存在です。支援先にとどまらず、地域全体を視野に入れた支援が、持続可能な競争力を生み出します。
本連載が中小企業支援に携わる皆様の実務の一助となれば幸いです。
【川村 昇】




この記事へのコメントはありません。