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中小企業のBCP

新聞社に勤務している筆者は、昨年6月、石川県と富山県を所管する北陸支社に転勤し、今年1月1日に能登半島地震に遭遇しました。過去3回の連載では「中小企業のSDGs戦略」について取り上げましたが、今回はこの地震を教訓にテーマを替え、中小企業の「BCP」を考えます。

能登半島地震でもBCPが効果

BCP(事業継続計画=Business Continuity Plan)という概念は、2001年9月の米同時多発テロ後に日本でも使われるようになりました。もはや説明不要かもしれませんが、BCPとは、地震などの自然災害、大火災、テロ攻撃などの緊急事態に遭遇した場合でも、企業の損害を最小限に抑え、事業を継続・復旧させるための方法をあらかじめ取り決めておく計画のことです。近年はシステム障害や、新型コロナなどの感染症への対応も迫られるようになり、企業にとっての重要性はますます高まっています。

能登半島地震では中小企業も大打撃を受け、その被害額は、石川県で3200億円、富山県で100億円と推計されています。そうした中でも、BCPの策定効果は報告されています。

例えば2月2日付朝日新聞によると、金沢市の織物部品メーカーは、工場で生産設備が倒れる被害がありましたが、数百あった製造中の部品で破損したのは3点のみ。18年にBCPを構築し、地震に備えて終業時に部品を固定していたのが功を奏したといいます。地震翌日には全社員の無事を確認し、BCPに沿った復旧対策本部を立ち上げ、1週間で生産を再開しました。

また、2月6日付北日本新聞によると、富山県の製薬会社は、昨年秋から物流拠点を分散して埼玉と大阪にも設置。1月5日から予定通り出荷できたそうです。

中小企業の策定率は大企業の半分以下

BCPの策定企業は徐々に増加しており、帝国データバンクの調査では23年5月時点では18.4%です(図表1)。しかし、中小企業に限れば、その策定率は23年5月時点で15.3%。大企業の35.5%の半分以下にとどまっています(図表2)。

中小企業で策定していない理由は、多い順に、①策定に必要なスキル・ノウハウがない(41.4%)②策定する人材を確保できない(30.2%)③策定する時間を確保できない(26.2%)――など、策定することが困難であることを理由に挙げています。

図表1 BCPの策定状況(帝国データバンク意識調査)

図表2 BCPの策定率(帝国データバンク意識調査)

簡易版BCPのお薦め

そこでお薦めしたいのが、「事業継続力強化計画」です。これは、中小企業等経営強化法の一部を改正して19年に施行された中小企業強靭化法で設けられた認定制度で、中小企業の自然災害対策を促進するための「簡易版BCP」と言えます。

計画を作成し、認定を受けた中小企業は、税制優遇(設備を取得した場合に、特別償却20%)や補助金加点などの支援策も受けられます。優遇の対象には、自家発電装置や制震・免震装置もあります。

実は能登半島地震では、倒壊した工場や店舗の建て替え、壊れた生産設備の復旧を支援する「なりわい再建支援補助金」という制度が適用され、石川県では15億円、富山県では3億円を上限に、費用の最大3/4を補助します。

この利用にあたっても、「事業継続力強化計画等の策定または策定予定であることを確認します」という条件がついています。もちろん企業独自のBCPでも可ですが、補助金利用を機に、企業の防災意識を促しているのです。   

策定の手引きは

具体的な策定方法を記すには紙面が足りませんので、以下のHP「事業継続力強化計画策定の手引き」を参照してください。https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/antei/bousai/download/keizokuryoku/tebiki_tandoku.pdf

策定のステップは

【STEP1 目的の検討】「何のためにこの取り組みを行うのか」を明らかにする。自らの事業活動が、サプライチェーンや地域経済全体に与える影響や、従業員に対する責務等、自らの事業継続力強化が、自然災害等による経済社会的な影響の軽減に資する観点から記載する。

【STEP2 リスクの確認・認識】事業所・工場などが立地している地域の災害等のリスクを確認・認識する。「ヒト(人員)」「モノ(建物・設備・インフラ)」「カネ(リスクファイナンス)」「情報」の4つの切り口から自社にどのような影響が生じるかを考える。

【STEP3 初動体制の検討】災害等が発生した直後の初動対応として、①人命の安全確保②非常時の緊急時体制の構築③被害状況の把握・被害情報の共有――を検討する。

【STEP4 ヒト、モノ、カネ、情報への対応】 STEP2で検討したヒト、モノ、カネ、情報への影響を踏まえ、どのような対策を実行することが適当か検討する。

【STEP5 平時の推進体制】平時の取り組み(訓練)を検討する。

の5段階がありますが、大事なのは【STEP2 リスクの確認・認識】です。企業が立地する場所で、どのような災害が起こりうるのかを把握することが、まずは必要です。 

リスクの把握方法

例えば地震の場合、地域ごとの今後の地震発生確率を国立研究開発法人・防災科学技術研究所の「J-SHIS(地震ハザードステーション)」で検索できます(https://www.j-shis.bosai.go.jp/)。

試しに神奈川協会のある「横浜市中区」を調べると2020年以降、30年間に発生する地震の確率は

震度5弱以上 100.0%  震度5強以上 96.9
震度6弱以上 64.6%   震度6強以上  17.6%

と、神奈川県内でもかなり高いことがわかります(図表3)。これを前提にした計画が必要になります。

図表3 横浜市中区で発生する地震の確率(J-SHISから)

地震列島で生きる私たち。「備えあれば憂いなし」の意識を社内で高めていくことが肝要です。
最後に、4回にわたる拙い連載にお付き合いいただき、感謝申し上げます。

【遠田昌明】

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