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(連載企画) 中小企業診断士が知っておくべき「認知症」理解 第2回

前回は、日本の高齢化と認知症患者の増加、認知症の経済的損失、認知症基本法の成立についてお話しました。認知症患者さんやご家族が安心して生活ができる共生の視点が大切であるとお話しました。

① 認知症共生社会の中で、認知症の予防をとらえる

認知症の患者さんが、その人らしく生活するには、家族の支援だけでなく、介護保険サービスや行政サービスなどの福祉的な支援、老人ホームなどの在宅サービス、病気になったときに対応をする医療的なサービスなど、多くの制度を整えていくことが必要です。日本は、高齢化先進国と言われていますが、地域包括支援という名前で、各種のサービスが整備されています。介護保険や、健康保険の制度が整っていることは、日本が世界に誇れる大きな取り組みと考えてよいと思います。

そうはいっても、個人の資産も、税金も、マンパワーも無限にあるわけではありません。自分らしい人生を送るために、健康に配慮することは、個人のレベルでも重要です。また、予防の視点も重要です。ここで、認知症の予防とは、認知症にならない、ということではないということを知っておいてください。「認知症にならない」、といってしまうと、認知症になった人は予防を怠ったのか?自己責任か?という議論になりかねません。一部のヘルスケアビジネスで、このような間違った発信をしているのを見かけます。認知症の予防は、認知症への移行を遅らせる、進行を遅くするということになります。

② 認知症の進行を遅らせる

アルツハイマー型認知症とレビー小体型認知症は、専門医による診断のもと、適切な薬が使用されると進行が遅くなります。進行が遅くなることで、重度化して介護が必要な状態になるまでの時間を長くすることができます。ご家族にとっては、在宅生活をいつまで続けるか、施設などのサービスをいつ利用するか、といったことを考える時間になりますし、認知症について理解を深めることで、適切な対応が取れるようになり、覚悟もできます。

③ 早期診断について

認知症を早期に診断しても、遅らせるだけで治療法がないなら意味がないじゃないか、という意見があります。しかし、認知症になる前に早期診断することで、本人の意思を確認することができます。自分の時間、財産などをどのように使いたいかを自分で決めたり、楽しい思い出を作ったり、また、人生の最終段階をどのように過ごすかについて、家族と話し合う人生会議の時間も取れます。本人の希望がわかれば、対応する家族も悩みが少なくなり、関わりやすくなります。後の後悔も少なくなるでしょう。現実には、家族のサポートや使えるサービスには限りがありますが、本人の希望から議論をスタートすることは大切なことです。また、中には早期に診断することで治るタイプの認知症もあります。

④ 新薬が登場

今年、エーザイ株式会社の「レカネマブ」という薬が、新薬として承認されました。アルツハイマー型認知症の前段階である、「軽度認知障害」に適応となる見込みです。レカネマブは、アミロイドと呼ばれる脳内のタンパク質に結合し、排せつを促すことで、アルツハイマー型認知症の発症を遅らせます。早期診断の重要性がより高まったといえます。レカネマブは、高額であること、頻回の点滴が必要であること、脳の浮腫や脳出血といった有害事象が現れる可能性があることなど、デメリットも指摘されています。今後も認知症の新薬の登場は続く見込みです。

⑤ ヘルスケア市場の変化

これまで、軽度認知障害は、状態像なのか、病名なのかはっきりしていませんでしたが、治療薬が開発されたことで、軽度認知障害は病名だとはっきりしてきたと思います。軽度認知障害が病名であるとすると、薬機法の関係で、ヘルスケアではなく医療領域である、と考えなければならなくなるかもしれません。予防の発信方法も含めて、より配慮が必要になるでしょう。

⑥ 経営者は、脳の健康について関心を

財産が多く、利害関係者が多い経営者が認知症になると、経済的なことでトラブルが発生することが多いです。遺言も、認知症状態で書いたものは無効となることがあります。スムーズな事業承継を考えるにあたっても、経営者は意識して脳の健康を考えることが大切でしょう。また、経営者が脳の健康を重視することは、従業員の脳の健康、さらには、労働生産性向上への効果も理解しやすいと考えられます。これは、健康経営にもつながる考え方だといえます。

次回は、脳の健康を維持する取り組みについて、紹介していきます。

【千葉 悠平】

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