連載企画 人的資本経営は攻めの経営戦略になる (1)人的資本経営とは
皆さん、こんにちは。今年、診断士登録をした清野(せいの)と申します。これまで約15年以上人材業界の現場で、企業の人事・人材課題に向き合ってきました。その経験を元に、少しでもプラスになる情報をお届けできれば幸いです。皆さんは「人的資本経営」という言葉を聞いたことはありますか。日頃から人事部や業界で働いている方であれば、聞き馴染みがある言葉です。しかし馴染みがない方は、実態を掴みかねているのではないでしょうか。今回は人的資本経営の基礎について解説します。
1.財務指標だけでは語れない新しい経営の物差し
企業価値を図る際の情報として、財務三表をイメージされる方は多いかと思います。一方で投資家の見る視点は変化しつつあります。2020年から始まった三井住友信託銀行が行っている「ガバナンスサーベイ」の2024年版の調査結果が図4-1になります。投資家は「人事戦略が企業価値向上につながるストーリー」の開示を求めていることがわかります。

また、日本経済新聞2022年8月7 日の記事では従業員による評価が高い企業は株価・業績が好調である結果も取り上げられています。他にもOcean Tomo社の「Intangible Asset Market Value Study」では米国のS&P500企業の無形資産の時価総額割合が1975年の約17%から2020年に90%近くに達していると報告しています。無形固定資産の考慮すべき要素の1つには人的資本による価値向上も含まれます。
人的資本経営の取り組みは企業価値や経営の状態を図る新しい物差しになりつつあります。
2.見えなかった価値が数字になる瞬間
人的資本に関して企業が開示すべき情報の指針は2つの視点で語られています。1つは、2022年8月30日に公表された内閣官房・非財務情報可視化研究会による「人的資本可視化指針」(図4-2)です。価値向上、リスクマネジメントの2つの観点で開示事項を整理しています。

2つ目が、金融庁が2023年1月31日に改正した「企業内容等の開示に関する内閣府令」です。この改正では、有価証券報告書および有価証券届出書に記載すべき事項に、新たに追加内容が求められています。具体的には「サステナビリティに関する考え方及び取組」の記載欄が新設されました。人材育成方針や社内環境整備方針といった事項です。「従業員の状況」欄には、女性活躍推進法などに基づく①女性管理職比率②男性の育児休業取得率③男女間の賃金格差といった指標に関する開示が求められています。人的資本経営に関する取り組みが数値化され比較されてきているのです。
3.時代が変えた「人」と「企業」の関係
これまでの企業が個人のキャリアをきめる画一的な雇用の在り方から、個人がキャリアオーナーシップを発揮し、働く環境を選んでいくような対等な関係性が生まれつつあります。表面的な見栄えの良い求人票や採用ページだけでは労働者からも選ばれません。人的資本に注力していることを示すことは採用戦略においても重要であり、競争優位性を生むために取り組むべき施策といえます。
【清野 裕樹】




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