茅ヶ崎市に聞く 道の駅「湘南ちがさき」の整備
2025年7月に茅ケ崎市柳島にオープン予定の道の駅「湘南ちがさき」は、神奈川県内で5番目、湘南では初の施設となります。国道134号沿いで、新湘南バイパスの茅ヶ崎海岸ICにもアクセスしやすい場所にあり、年間約200万人の利用者と約11億円の売上高を見込んでいます。敷地面積が1万4,960㎡(約4,528坪)で、駐車場は小型車と大型車で186台、二輪車と自転車で140台の施設です。国道134号は2015年に藤沢市の江の島入口から大磯町の西湘バイパスまで4車線でつながり、自動車や二輪車の交通量は増えています。最近は自転車の交通量も増えているように感じられますが、茅ヶ崎市は自転車利用が県内で最も高い地域性1)ということで、駐輪場も多く設けられているのではないかと思います。この2014年頃から進められていた整備事業に関して、茅ヶ崎市経済部産業観光課道の駅整備推進担当へのインタビューを踏まえてご紹介します。
道の駅構想の経緯
2014年当時は神奈川県内の道の駅は三つしかなく、4番目の開業として茅ヶ崎市が検討を始めました。圏央道が茅ヶ崎JCTにつながった翌年のことです(茅ヶ崎JCT~寒川北ICの開通は2013年4月)。2016年に発表された茅ヶ崎市道の駅基本計画には、休憩機能の他に、情報発信機能、地域連携機能が記されています。茅ヶ崎市はもちろん、姉妹都市であるホノルルを感じる空間の提供などが基本方針に記されていました。
しかし、用地買収の遅れやコロナ禍などの理由で2度延期となり、「道の駅足柄・金太郎のふるさと(2020年6月オープン)」に次いでのオープンということになりました
道の駅「湘南ちがさき」のコンセプト
茅ヶ崎市では、道の駅から発信するオリジナルブランド「Choice! CHIGASAKI」として「再発見、茅ヶ崎。」をコンセプトに、町の「宝物」を再び見つけて発展させていくブランディング活動を進めています。この道の駅ができることで、よりつながりやすい仕組み(運営、イベントなど)が生まれ、茅ヶ崎全体の“ブランディング”になっていくということです。
茅ヶ崎市は、ネームバリューはあるけれど観光資源は豊富とは言い難いのが実情です。“道の駅を通じて茅ヶ崎の魅力を知ってもらい、茅ヶ崎らしさを前面に出していく。そして、地域ブランドと経済好循環を生み出す“。道の駅を目指して市内事業者に出店や出品に積極的に参加してもらい、元気になってもらったり、新しい方々にチャレンジショップなどにも挑戦してもらったりすることを期待しているとのことでした。
名称の決定
「湘南ちがさき」という名称は、「誰からも愛される」「茅ヶ崎の魅力が伝わる」道の駅とするため、市民の皆様から名称案を募集し、6案の候補から再び一般投票を行って決めるという二段階方式にて行われました。名称募集で選ばれた3候補を漢字やひらがななど異なる表記で2つずつ、計6候補にして選択肢を広げて一般投票する手順です。名称募集と一般投票で延べ4,500件以上(茅ヶ崎市民の2%弱に相当)の意見が反映されていますので、市民の皆様にも愛着を持ってもらえることと思います。茅ヶ崎市民の筆者にとっても「覚えやすく」「多くの賑わいが生まれる」といった募集内容にも合致していると感じられます。ちなみに道の駅の名称は、これから国土交通省の登録手続きを経て正式名称となります。
サービスエリアとしての役割・大店立地法による駐車場の台数
道の駅「湘南ちがさき」は国道134号沿いなのでドライバーの休憩スペースとしての役割が求められています。駐車場台数とトイレ個数は前面交通量から必要台数を算出されました。その後に、利用者が増えた場合を想定して大規模小売店舗立地法の算出方法で駐車台数などを増やしたそうです。
図7は予定しているトイレ入り口部分に設けられる情報案内スペースです。高速道路のサービスエリアのような余裕を持たせた空間だと思われます。この施設はサザンビーチの中心部からは少し離れてはいますが、花火大会や湘南祭などのイベントがあると混雑する場所になるでしょう。おそらくですが、そういった茅ヶ崎市内の利用者が集中するときなどにも利用される施設として、茅ヶ崎市民に重宝されることになるように思われます。
近隣施設(スポーツ公園や柳島しおさい公園)
道の駅の敷地北面の市道(通称「鉄砲道」)を挟んだところに柳島スポーツ公園があります。総合競技場やテニスコート、多目的広場などがあり、サッカーやラグビー、陸上競技など様々なスポーツイベントで利用されています。スポーツ公園利用者が帰りに道の駅に立ち寄ることも想定されるでしょう。また、国道を挟んだ海側には、柳島しおさい公園 (相模川流域下水道左岸処理場上部施設)や柳島キャンプ場などの施設もあります。近隣施設と一体となって盛り上がってくれることも期待されます。
ちなみに、オープン後の施設をイメージすると、国道を走行しているドライバーは地域振興拠点や駐車場前面にある民間のガソリンスタンドに視線が遮られて、200台近くの駐車場は把握できないように思います。ドッグランや植栽を横目に入場して初めて駐車スペースの広さに驚かれることでしょう。
利用者構成と施設・商品構成の工夫
この施設は道の駅ですから、県外や市外のドライバーや同乗者が利用者として一番にイメージされるところです。運営事業者を選定する際の判断基準(定性審査項目や配点)も集客など外部への発信力が評価の一部になっているとのことでした。一方で、自転車利用が多い地域住民の利便性や地域農産物などの出品も重視されています。国道沿いに配置された駐輪場に並ぶ自転車の数を想像するとバンドワゴン効果で、通行するドライバーやサイクリストも立ち寄りたくなるのではないでしょうか。
道の駅整備推進担当が各地域の道の駅を調査したところ、道の駅によっては利用者の半分以上が市民という所もあるとのこと。そのためには、日常利用したいと思わせる工夫も重要とのことでした。また、テナントや出品者の選定も市内事業者などが優先で、次に湘南地域の事業者になってきます。市内産品はもちろんですが、それ以外にも湘南地域の物も取り揃えて、湘南地域のゲートウェイとしての役割も担っていきます。図11にあるように、商品開発やブランディングを考えるときに、市内に今あるものを見つめ直して磨きをかけることや市外(第三者の視点)からフラットな目で茅ヶ崎を見つめてもらうという考えは、中小企業診断士の役割としても再認識すべきことだと感じました。
運営者の決定及び施工業者
建設業の経営支援を専門としている筆者としては、工事の受注業者やその方式などに興味があります。管理、運営を一体で民間事業者に発注するDBO方式(詳細は後述)が採用され、企画競争入札(プロポーザル方式)で選別が行われました。代表企業が市内企業でない応募グループが採択されましたが、茅ヶ崎市としてはサービス水準を示し、民間事業者のノウハウを活かして欲しいとのことでした。一方で、構成企業には2社以上の市内企業が参加するという条件を付しており、下請の協力業者などにおいても市内事業者を利用することも期待しているということでした。これから工事はピークへと進んでいきますが、適切な工程管理で協力業者に無理を押し付けない進捗となることを期待します。
整備スケジュールとコロナ禍などの影響
2016年3月に策定された道の駅基本計画では東京オリンピック開催前の2019年7月オープンを予定していました。しかし、用地買収の遅れなどから一度延期になりました。2018年10月に服部信明・前市長が急逝し、新市長が見直しを図るよう指示したことも影響したそうです。その後に武漢市から感染が拡大した新型コロナウイルス感染症の影響で予算も市民生活を守るために支出配分を見直され、道の駅の計画は2022年から2025年オープンへと、更に延期されることになりました。図は2016年当時と現在の事業スケジュールです。2016年のスケジュールにはなかった、竣工からオープンまでの「開業準備」期間が現在では設けられていることから、慎重な計画になっていることが感じられます。(建設工期は共に12ヶ月)
出店テナントと商品構成
道の駅「湘南ちがさき」に出品が予定されているChoice! CHIGASAKI認定品目は2020年に選定されています。その後、事業スケジュールの見直しなどもあり追加の選定はなされていませんでしたが、2024年7月に追加募集(第2回認定)実施が公表されました。10月にはエントリーを開始して、書類審査や一般投票の後、2025年2月には5~10品目ほど追加される予定とのことです。応募資格や商品などの制約条件はありますが、「オリジナリティ」「クオリティ」「サステナビリティ」を認定基準に、該当する商品及びサービスが対象となるとのこと。産業観光課としても茅ヶ崎らしいモノ・コトとして積極的に手を上げてほしいということでした。個人的には未体験でも可能という「SUPフィッシング体験スクール」に興味が湧いています。
広報活動
道の駅「湘南ちがさき」の情報は、広報紙はもちろんタウンニュースやホームページ、各種のSNSなどで多く発信されています。これまでは産業観光課が中心となって行われていたとのことですが、これからは選定された運営事業者の「ちがさき未来プロジェクトグループ」と共に発信していくとのことでした。最近では、ちがさき産業フェアや茅ヶ崎アロハマーケット、湘南ベルマーレ茅ヶ崎ホームタウンデーなどでのPRやChoice! CHIGASAKI認定品目の一部販売なども行われました。道の駅整備工事の進捗状況についても定期的にホームページで発信されています。また、道の駅責任者候補の募集も開始されたようです。今後は「ちがさき未来プロジェクトグループ」による民間の知見で積極的な広報活動もしていくと思われます。オープンに向けて地域全体で盛り上がっていくことが期待できそうです。
DBO(Design-Build-Operate)方式の採用
DBO方式とは、設計・施工に加え施設の維持管理を一括して発注する方式(国土交通省「官民連携事業導入編」)で、より包括的な管理と運営の合理化が図られます。2022年にコロナ禍における予算の見直しや整備工程の精査の結果、2025年7月へとオープン時期が見直されると共にDBO方式が採用されることになりました。費用低減効果や良質なサービスの提供が期待されるとのことです。コロナ禍で市税予算を社会保障などに優先させる必要があったことも踏まえて事業手法を見直したそうです。
経済部産業観光課の役割や取り組みについて
茅ヶ崎市役所で産業振興を担う経済部産業観光課は、商工業振興や観光事業、企業誘致だけではなく、就職活動支援や労働相談など多岐にわたる業務を担っています。事務事業概要書には、42項目の事務事業が細かく記されています。担当者に伺うと、社会情勢が変わってくると、それに合わせて事務事業も変わってくるということでした。名称も以前は産業振興課だったと記憶しています。その産業観光課の役割として求められたのが、道の駅「湘南ちがさき」の整備・管理運営事業であり、用地周辺道路改良事業やオリジナルブランド「Choice! CHIGASAKI」の推進事業などです。県内では道の駅の数が少なく、予定された規模も他とは大きく異なっていました。成功に導くための情報も限られていたため、その情報収集のために多くの道の駅を回られたとのことでした。
謝辞と感想
茅ヶ崎市役所経済部産業環境課のご担当者様には公務でお忙しい中、ヒアリングにお付き合いいただき、ありがとうございました。多くの資料が公表されているうえに、貴重なパース画像も提供して下さったこと感謝いたします。筆者も茅ヶ崎市民の一人として30年にわたり居住して慣れ親しんだ茅ヶ崎市に新たな発信拠点ができて、地域振興や観光の促進につながることを期待しています。
※画像の出典は全て茅ヶ崎市役所及び道の駅湘南ちがさきのホームページより
- 国土交通省「『ちがさき自転車プラン』とみんなが主役の自転車まちづくり~市民や事業者との協働で進めてきた10年間~」 2024年8月12日アクセス https://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/soukou/soukou-magazine/1505chigasaki.pdf
【加藤仁史】
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