
連載企画 経営コンサルタントの視点による建設業の多様性 (4)建設会社の事務所と現場との距離
建設会社や専門工事業者の経営支援を専門としている経験を踏まえて、情報をお伝えしていきます。前回は工事高規模と費用構成についてお伝えしました。得意としている工事が野丁場と町場のどちらかで1件当たりの工事高が変わります。年間売上高が同じならば工事件数が変わり、管理手法も違いが生じます。材料費や外注費、労務費などの費用構成によって収益力やビジネスモデルに影響するのです。今回は、その会社が都市部にあるか地方なのか、現場が近隣か遠方かによる影響について解説します。
■都市部と地方部で異なる工種別の構成比
図1で見ても明らかなように、都市部(例:東京都)では土木工事や舗装工事といった土木系の工事業と建築工事や内装仕上工事といった建築系の工事業の許可業者数は大きな開きがあります。一方、地方部(例:青森県)では土木工事業と建築工事業の許可業者数の差はほとんど無いばかりか、内装仕上工事業者は極端に少ないことが判ります。地域毎にそれぞれの市場規模が異なるためです。経営支援する中小企業診断士の立場からすると、どちらの工種に対する需要が多いかは明らかでしょう。

建設会社が利益を出すためには、工事毎の粗利率も重要ですが、工事毎の粗利益額と販売費に影響する営業コストも考慮して工事を選ぶ必要もあります。1件当たりの工事高が大きい工事であれば利益額は残し易いため工事現場が遠くても良いでしょう。しかし、少額工事の場合は現調などに要する費用も鑑みると、現場はなるべく近くにする必要があります。主に下請で受注している専門工事業者は、野丁場と町場のどちらを得意としているか判れると前号で説明しました。野丁場工事は多くの場合1件当たりの工事高が大きいので、遠方の現場でも営業に要するコストはそれほど多くはなりません。一方、町場でリフォーム工事など少額になり易い工事内容の場合、元請であっても下請であっても近い現場でないと利益額は残りません。例え粗利率が良かったとしても、1件当たりの工事高が小さいため残る粗利額は少なく、現調費など工事原価に含めていない費用が営業利益を圧迫する要因となってきます。

建設会社の支援をするときに工事毎の粗利率を気にすることは多く、それ自体は間違っていません。しかし、粗利額と営業コスト(販管費)なども考慮して適切な分析や判断を行う必要もあります。
■事例
昨年支援したリフォーム会社は住宅地も近い街道沿いに営業所を構え、社長を含めて3人で事業を行っています。近隣住宅の工事を請負う一方で、30㎞以上離れた社長宅近くのホームセンターと契約して、建材購入者への施工も行っていました。更に、社長が前職時代の顧客からも引合が多いのですが、会社からは社長宅と反対方向で20∼30㎞離れた地域の顧客が多くを占めていました。まず、取り組んだのは少額工事で粗利率も低いホームセンターとの契約解除です。これにより営業コストは激減しました。前職時代の顧客も精査し、営業コストに見合う工事に絞って、商圏を最適な範囲に制限しました。
■まとめ
都市部と地方で建設会社の総数に違いがあるのは当然ですが、地方ほど建築系の会社は少なく土木系ばかりといった印象を受けます。前号までも記した通り建設会社は様々な切り口での分類ができます。同じ工種でも違う特徴を持っていることが多く、建設会社は一律に表すことはできません。一方、その特徴を理解して経営者と話すとヒアリングからも様々な情報を得ることができるでしょう。
【加藤 仁史】
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