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連載企画 現場から見た「物流2024年問題」(2)人手不足倒産の現実味

今年8月に公開され、大ヒット中の映画「ラストマイル」(主演・満島ひかり)はご覧になりましたか。日本の物流の現状にも切り込んだ意欲作として、運送業界でも話題になりました。巨大で近代的な物流倉庫とは対照的に、通販の大量の荷物を運ぶのは火野正平らが演じる零細経営の運送会社。時間に追われ、苦情を浴びながら、日々配達しています。今、こうした運送会社が危機に瀕しています。

急増する人手不足倒産

かつてトラック運転手は稼げる仕事でした。例えば、ワタミ創業者の渡辺美樹氏は大学卒業後の1980年代前半、宅配便ドライバーで1年間働き、300万円を作って居酒屋を創業したことで知られますが、近年の運送業界は「ほかの業界と比べ、労働時間は2割長く、賃金は1割低い」と言われています。

日本の貨物自動車運送業者は約6万3000社。佐川急便やヤマト運輸など大手は一握りで、車両10台以下、従業員10人以下の中小業者が約半数を占めます。もともと運送事業への参入は免許制で、競争も少なかったのですが、1990年に許可制(軽貨物は届出制)に規制緩和され、車両5台があれば参入できるようになりました。これにより、新規参入も増え、低価格競争も激化。時間外労働も横行したことが、今回の残業時間規制につながったわけですが、この規制によって、

①運転時間が減り、運転手(特に長距離ドライバー)の大きな収入源だった残業代も減る
②運転手はより待遇のよい大手運送会社に転職するか、別の業界へと移ってしまう
③中小運送業者は人材難に陥り、運行できないトラックが出る。燃料代高騰もあって経営が悪化

という事態が現実化しています。

東京商工リサーチの10月の発表によると、求人難や人件費高騰などを理由にした「人手不足倒産」は24年度上半期に148件で、前年同期の1.8倍に急増。なかでも運輸業は28件で、同47%増となりました。

追いつめられる経営者

「人手不足倒産」は、仕事自体はあるのに、「人件費の高騰」などが会社を追いつめる倒産です。

前述のように他業界より低いと言われる所得ですが、労働時間を減らしていけば、必然的に残業代が減り、収入はさらに減っていきます。そうした中で人材流出を避け、新規採用に結びつけるためには大幅な賃上げが必要になります。                

図表2に示した通り、運転手の年間所得も徐々に向上していますが、その原資となるのは運賃収入。燃料代も高止まりする中、運賃への価格転嫁ができなければ、たちまち経営難に陥ってしまいます。

全日本トラック協会が22年度に2532社を調べたところ、平均営業損益率は0.0%でトントン。車両10台以下では▲3.6%で、実に64%が営業赤字という状態でした。

この状況の中で、「賃上げしてさらなる収支悪化を覚悟するか」「賃上げせずに人材難を覚悟するか」、経営者は今、厳しい判断を迫られています。追いつめられ、「もはや会社を畳むしかない」という経営者がいてもおかしくはありません。

残業規制によって、ただでさえトラックの輸送能力は、24年には14%、30年には34%減るとの試算もありますが、人手不足倒産はそれに輪をかけ、日本の物流網を破壊してしまう恐れがあります。官民挙げての対策が急務です。

【遠田 昌明】

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