連載企画 現場から見た「物流2024年問題」(1)物流の何が変わったのか?
ニュースなどで「物流2024年問題」というワードを聞く機会が増えたのではないでしょうか。筆者は36年間、新聞社に勤務していますが、今年6月、物流を扱うグループ会社の社長に異動となり、日々、この問題と向き合っています。トラック運送業は、社員10人以下、車両10台以下の零細事業者が半分を占めます。職場での経験も交え、中小企業にとっての「物流2024年問題」を連載していきます
影響は早くも表面化
ソニーと日立が家電を共同輸送」「ファミマ・ローソン 東北3県で共同輸送」「大手食品大手5社 共同輸送検討」「日本郵便・西濃 トラック全国共同輸送」――。
これは今年に入ってから新聞各紙に掲載された物流ニュースの見出しです。共同輸送と聞くと、前向きの協業にも感じられますが、「2024年問題」がもたらす運転手不足や輸送費上昇への対応を迫られているという背景があります。さらに、市民生活に直結するニュースも増えてきました。
「毎日新聞 富山での配送を休止」「日販、ファミマとローソンへの書籍配送終了 25年に」――。
この二つには、新聞・出版の販売部数減少も影響していますが、「2024年問題」のあおりで、輸送費上昇が避けられなくなり、遠隔地や細かいコンビニ店への輸送トラック網を維持することが難しくなったことが大きな理由です。書店取次大手の日販は、ライバルのトーハンに配送を引き継ぐことを発表しましたが、そのトーハンも全店引き継ぐのは難しい模様で、活字文化の衰退が懸念されています。
筆者が一番の衝撃を受けたのは、今年7月に帝国データバンクが発表した「人手不足倒産、過去最多ペース 『2024 年問題』が直撃」というリリースでした。「2024年問題」のため、トラック運転手の人材不足が表面化し、物流業界では24年上半期の人手不足倒産が27件と、前年同期(15件)から倍増したというものです。このままでは社会インフラへの影響は増すばかりです。
2024年問題とは
「2024年問題」の本質は、トラックやバスの運転手の労働時間の見直しです。2019年に施行された働き方改革関連法が、長時間労働が常態化していた運転手や医師らにも今年4月から適用されました。
もともとトラック運転手は全産業平均と比べ、労働時間は2割長く、賃金は1割低いとされてきましたが、新たな「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」(改善基準)では、時間外労働の年間上限が960時間となったほか、「拘束時間」(1年が原則3,300時間以内、1か月が原則284時間以内、1日が原則13時間以内)、「休息時間」(原則11時間以上)、「運転時間」(2日を平均して9時間以内)、連続運転時間(4時間以内)など、他の業種にはない細かい基準が厳格化されました(表1)。
特に1日の拘束時間の上限は、これまでの「上限16時間」が「上限15時間」へと1時間短縮されました。拘束時間には、翌日の始業時間が早まった分もカウントするというルールがあります。
表2は、これまでは問題なかった勤務時間の例ですが、今は①月曜日の拘束時間(16時間)②水曜日の拘束時間(始業が早まった木曜日の1時間分を加えて16時間)③水曜日の休息時間(8時間)――では改善基準違反です。現場は運行時間の短縮に追われ、必然的に輸送量も絞らざるを得なくなりました。
時短を進めただけのように思える問題ですが、これが社会にどのような影響を及ぼしていくのか。次回から深掘りしていきます。
【遠田 昌明】
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