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連載企画第1回 横浜市の外資系企業

 コロナウイルス感染症が猛威を振るい、人やモノの動きが著しく停滞して経済が大きな損傷を受けているこの時期に、「横浜市の外資系企業」というタイトルは如何にもインパクトがなく、限りなく的外れではないかという印象を持たれる方が多いと思われる。

1.海外進出支援研究の好機

 グローバル化を前提にして組み立てられた生産・流通・消費の仕組みが機能せず、一部の業種では既に国内回帰の動きさえ始まっている。筆者は日本企業の海外進出支援を、診断士としての業務の一つの大きな柱と位置付けているが、当該業務は閑古鳥が鳴いて久しい。しかし、立ち止まって(開き直って?)考えてみると、海外進出やグローバル化の意義をジックリ見直してみる良い機会ではないだろうか。

 この淀んだ閉塞感が充満する“空気”の中で、足元の素材を時間的・空間的に見詰め直して世界経済のダイナミズムの一端でも伺うことができないだろうか。具体的には、日本に既に進出して来ている外資系企業の日本での成り立ちや現状を分析することによって、逆に日本企業が海外に進出する際の大きな示唆が得られるのではないか。牽強付会の誹りを恐れず言えば、日本に進出している外資系企業は、海外に進出している、或いは進出しようとしている日本企業の「映し鏡」であり、日本企業が海外進出する際に直面する種々の困難や課題に同じように対峙している可能性が高い。

2.外資系企業分析の目論見

 横浜市は開港以来日本をリードする貿易港として国際経済の躍動を常に間近に見てきた。繊維産業が基幹だった時代から自動車が大きな比重を占める現在まで、港湾の設備や機能は大きく変化してきている。否、港湾に限らない。国際経済の影響を、日本の最前線で、その全身で受け止めるとともに、産業の栄枯盛衰を自ら体現しているようにも見える。

 横浜市の外資系企業の現在の規模、業種を明らかにするとともに、各企業の設立時期や出資国の変遷を分析することによって、日本に外資が進出することのメリット及びデメリット、事業を行う上で困難を感じていることなどを探ることができないかと目論んでいる。次号以降具体的な分析に入るが、日本に進出している外資系企業の4社に3社は東京都に所在し、神奈川県に所在する外資系企業は全体の10%に満たない。更に横浜市だけとなると…?葦の髄から天井を覗くようなことになりそうである。

 但し、都区部と各道府県の市レベルで比較すると、横浜市は港区801社、千代田区564社、中央区274社に続いて堂々の全国第4位で215社が所在する。産業集積の進んだ大阪市や名古屋市を凌駕して外資系企業を引き付ける横浜市の魅力について探って行きたい。

3.外資系企業の業種

 全国の外資系企業3,172社の都道府県および市、都区の所在地別企業数を概観したが、分析のカテゴリーとしては所在地のみでなく、いくつかのものが考えられる。今回は紙幅の関係もあり、業種、出資企業の国籍、設立時期に絞って分析を試みる。先ずは全国の現状を把握した後に横浜市との対比をしてみたい。

 全国の外資系企業の業種別割合を大まかに図示すると次のようになる。製造業は21%、非製造業は79%を占める。非製造業を大きく卸売業、情報・システム・ソフト、その他非製造業に3分類すると卸内業は全体の37%を占める。非製造業の中で卸売業の次に企業数が多い情報・システム・ソフトの12%と合計すると、49%とほぼ全体の半分になる。

日本の2016年度の業種別会社数の統計を見ると、製造業の割合が約15%、非製造業が約85%となっており、製造業と非製造業という大きな括りでは、日本に進出している外資系企業と非常に似た傾向を示している。また海外進出している日本企業を同じく製造業と非製造業に分けた統計では、2007年度には約半々だった製造業と非製造業の企業数の比率が、近年は25%対75%と圧倒的に非製造業の比率が優位となっている。

海外進出している日本企業と日本に進出している外資系企業の業種の比率が、製造業と非製造業という分け方ではほぼ同じ傾向を示している現実は、長期的・構造的な経済原理が彼我の海外投資に働いているような気もする。

4.外資系企業の国籍

 次に日本に進出している外資系企業の出資企業の国籍を調べてみると下図のようになる。欧州、言い換えればEUからの進出企業数がアメリカ、カナダの北米を上回っている。日本の貿易統計の輸入額に占めるアジアの比率は2018年度で47%であり、EUとアメリカはともに10%前後であることと比較すると、アジアからの外資系企業の進出の割合が極端に少ないということができる。貿易額は多いのに、日本への進出企業数が少ない理由を探りたいところではあるが、今回の連載記事の本旨とは離れてしまうので、別の機会に譲りたい。

5.外資系企業の設立時期

 全国レベルでの外資系企業の分析の最後に設立時期を見てみたい。元データの設立時期の区切り方が均等でなくやや難があるが、1985年以前と1986年以降では製造業と非製造業の設立数の比率に差が見られ、非製造業の設立数が相対的に増えている。産業構造の高度化が表れているということができそうである。

 蛇足ではあるが、情報・システム・ソフト業種の企業設立数を同じ期間で区切ってグラフにすると下図のようになる。各業種の中でも近時著しい設立数の増加が見られる業種であり、次回以降横浜市のデータとの比較分析を行う際にも注目すべき業種であると考えられるので、敢えて取り上げておく。

【高木 富士夫】

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