連載企画 最前線から学ぶ経営 (1)ビジネスモデルを変える企業の発想
はじめまして。伊藤と申します。2023年度に診断士登録をし、今年度から神奈川中小企業診断協会に参加させていただくことになりました。私は、自動車メーカー、蓄電池メーカー、米EVメーカーで商品企画、新規事業、営業などに携わってきました。現在は自動車メーカーで新規事業開発を担当しています。本連載では、様々な企業で実際に体験・感じたことをベースに得た示唆を中小企業の皆さまに役立てる記事として1年間お届けします。どうぞよろしくお願いします。
■テスラは「自動車メーカー」ではない
今回は自己紹介を兼ねて、私が深く関わったテスラを例に挙げますが、そこで学んだビジネスに対する考え方は先端企業や大企業だけでなく、中小企業含むすべての企業に示唆を与えてくれています。皆さまのテスラに対するイメージは、電気自動車メーカーやイーロン・マスクなどが多いでしょう。2025年に中国のBYDへ首位を譲るまで電気自動車(EV)のトップメーカーでしたので、自動車メーカーと位置づけている方がほとんどだと思います。しかし、テスラでは、自社を単なる自動車メーカーではなく、「ソフトウェア・エネルギー会社」と位置付けています。
創業がEVですし、売上高の多くをEVが占めているのは確かです。しかし、テスラの掲げるミッションは、『持続可能なエネルギーへ世界の移行を加速する』です。そのミッションを実現するためにEV、太陽光パネル(日本未展開)、蓄電池事業を展開しています。近年では、蓄電池事業が会社の成長を支えるまでに伸びてきています。
テスラは、そのミッションを実現するために領域を拡大しながら、事業を成長させています。今後は、ロボタクシー、AI、ロボットにも事業領域を広げていくと発表しています。
■なぜ自動車メーカーの中で世界一の株式時価総額になったのか
自動車の販売実績でいえば、トヨタ自動車は約1,053万台、一方テスラは約163万台と6.5倍の開きがあります。しかし、株式時価総額で見ると、トヨタ自動車は約53兆円、テスラは約219兆円と逆転しています。
自動車メーカーの利益の源泉は、新車販売や用品販売による収益です。EVは電池コストが高く、EV販売で利益が出ていないと言われていますが、テスラは徹底的な効率化によりEVの販売でも利益を出しています。
テスラが他自動車メーカーと異なるのは、新車販売以降も継続的に利益を上げる仕組みを作り上げていることです。例えば、EVを販売し確保したCO2排出権を他自動車メーカーに販売、EVの充電インフラ網からの収入、OTA(スマホのように後からソフトウェアアップデートする仕組み)による機能アップデート(基本無料。有料プランへの踏み台の位置づけ)、FSD(完全自動運転ソフト)のサブスク販売などです。このような新車販売後も稼ぎ続ける仕組みが株式時価総額の違いに繋がっています。
■テスラが売っているもの
テスラは、モノ(EVや蓄電池)を売っていますが、ユーザーに提供しているのは、優れた顧客体験(CX)です。全てのテスラ製品がスマホのアプリ1つで統一されて、シンプルにコントロールできるという優れた体験こそがテスラが売っているものです。それを支えるのが、強みであるソフトウェアであり、顧客体験(CX)を第一に考える企業文化です。
■中小企業への示唆
テスラは優れた顧客体験(CX)を提供することで継続的な収益を生み出しています。中小企業でも売って終わりではなく、その後も稼ぎ続け、長く顧客と付き合う仕組みを考えてみませんか?
製品、設備、サービスを販売して終わりではなく、保守サービス、定期契約、会員制度、データ活用など継続的な接点を持つ仕組みを考えることが、新たな利益の源泉になります。ヒントは、顧客に近い現場や全く違う業界の事例の中にあるかもしれません。診断士として企業支援を行う際にも「何を売るか」だけでなく、「どう利益を生み続ける仕組みを作るか」という視点で考えることが重要ではないでしょうか?
【伊藤 仁人】




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