連載企画 生成AI時代のデータマネジメント (1) AIよりデータ
はじめまして。2026年診断士登録の安東と申します。化学メーカーでの研究開発を経てIT業界へ移り、製造現場のわかるエンジニア/コンサルタントとして企業のAI・データ活用を支援してきました。
これまでの経験を通じて強く感じているのが、生成AI活用の成否を左右するのは、AIそのものだけではなく、その前提となる「データ」であるということです。データマネジメント自体は生成AI以前から存在する考え方ですが、生成AIの普及により、その重要性はさらに高まっています。本連載では、社内規程・業務マニュアルを生成AIで検索・活用するケースを題材に、中小企業でも実践できるデータマネジメントについて、全4回で紹介します。
■生成AIで何が変わったのか
これまで社内の規程、マニュアル、提案書、技術文書などは、主に「人が読んで使う」情報でした。生成AIの登場により、こうした情報をAIが直接参照し、質問への回答や文書作成などに利用できるようになりました。
つまり、これまで人が経験や文脈を補いながら利用していた情報を、AIにも理解・活用できる状態にしておく必要が生じています。生成AIの性能が向上するほど、「どのAIを使うか」だけでなく、「どのようなデータを与えるか」が活用成果を左右するようになったのです。
■社内情報を生成AIで活用してみる
具体例として、従業員50名程度の中小企業A社を考えてみます。A社では、就業規則、旅費規程、経費精算マニュアルなどが共有フォルダに保存されています。従業員から総務担当者への問い合わせを減らすため、これらの文書を生成AIに読み込ませ、質問に回答できるようにすることにします。
例えば、「宿泊費の上限はいくらか」「慶弔休暇は何日取得できるか」「部長はグリーン車を利用できるか」といった質問です。現在では、PDFやWordファイルを生成AIに読み込ませて質問することは、専門的な開発をしなくても簡単に試すことができます。
しかし、共有フォルダを確認すると、同じ規程の新旧ファイルが混在しどれが最新版か分からない、ファイル名から内容や適用対象を判断できない、といった問題が見つかりました。さらに、規定には「役員はグリーン車を利用できる」とありますが、部長の扱いは不明です。この状態で生成AIに読み込ませれば、古い情報を参照したり、判断に必要な情報が足りず、適切に回答できない可能性があります。
■AIよりデータが重要
生成AIは「優秀な新入社員」に例えられることがあります。一般的な知識を豊富に持ち、文章作成や要約も得意ですが、入社したばかりでは自社固有のルールや業務の背景までは分かりません。仕事に必要な情報を適切に与える必要があります。
ただし、単に情報を大量に与えればよいわけでもありません。古い情報、重複した情報、意味の分からない情報まで与えれば、AIが正しい情報を選ぶことが難しくなります。
AIモデルの性能はベンダーによって日々改善されます。一方、自社のデータを整理し、その意味や信頼性を維持できるのは自社自身です。また、同じ生成AIを他社も利用できるからこそ、自社固有のデータは差別化の源泉にもなります。生成AI時代には、情報を単に「保管する」のではなく、人にもAIにも「活用できる状態」にするデータマネジメントが、これまで以上に重要になるのです。
■支援現場でのポイント
生成AI活用の相談を受けた際には、ツールやモデルを選ぶ前に、まず「どの業務で使いたいのか」を確認します。そのうえで、「その業務にはどの情報が必要か」「その情報はどこにあるか」「最新版か、信頼できるか」と順番に確認していきます。
AIありきでデータを集めるのではなく、「業務→必要な情報→データ整備」の順番で考える。これは、中小企業の生成AI活用を支援するうえで、最初に押さえておきたいポイントです。
次回は、A社のケースをもとに、対象業務から必要な情報を洗い出し、フォルダ構成、命名ルール、メタデータなどを使って、実際にデータを整えていきます。
【安東 優太郎】




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