中小企業診断士 養成機関出身者座談会 2025年
はじめに
中小企業診断士試験の1次試験合格者が、所定のカリキュラムを修了することで診断士に登録できる養成課程の出身者が増えています。養成課程のうち、中小企業大学校は中小企業庁直轄の「養成課程」であり、その他は「登録養成課程」に位置付けられます(以下、「養成課程」と統一表記します)。
神奈川県協会で活動する養成課程出身者も多数います。協会では各機関との連携を深めていきたいと考えており、養成課程出身者による座談会(オンライン形式)を実施しました※。
※本稿に記載された内容は参加者の見解であり、所属していた団体・機関の公式な見解を示すものではありません。
中小企業診断士の「養成課程」とは?
中小企業診断士の資格を得るには2つのルートがあります(図1)。
・試験ルート:1次試験合格後、2次試験を突破し、実務補習または実務従事を経て登録
・養成課程ルート:1次試験合格後、登録養成機関等の養成課程を修了することで登録
後者の養成課程には、全日制で学ぶタイプと、夜間・土日通学型があり、期間も半年~2年とさまざまです(図2)。

養成課程のカリキュラムには、経営戦略・財務・マーケティング・人事労務・生産管理・中小企業政策などの基礎講義に加え、事業計画作成や計量分析などの応用演習があります。また、全5回の診断実習が組まれており、各企業に入り込んで診断・報告を行うことが求められます。短期間で多くの成果物をまとめる経験は、実務に直結する貴重な訓練です。
オープニング
梶(日本工業大学専門職大学院修了)
「今日は養成課程を修了した6名の診断士に集まっていただきました。養成課程は試験ルートに比べ情報が少なく、実態が分かりにくいですよね。そこで今回は、修了者の皆さんに“なぜ養成課程を選んだのか”、“学びの中で何があったのか”、“修了後どう役立っているのか”を語っていただきます。」

参加者
塩津 進さん(中小企業大学校23年修了)
岩崎 百合香さん(株式会社日本マンパワー25年修了)
川腰 達也さん(公益財団法人日本生産性本部24年修了)
木村 京一朗さん(法政大学大学院25年修了)
櫻井 法恵さん(日本工業大学専門職大学院25年修了)
梶 敦次(筆者)(日本工業大学専門職大学院25年修了)。 計6名。
トークテーマ①皆さんの養成課程進学に至ったきっかけを教えてください。
塩津さん(中小企業大学校修了)
「59歳で2次試験に落ちたものの、定年退職を機に「一刻も早く診断士に」と考えました。半年で修了できる大学校を選んだのは、寮生活を通じて全国の仲間と寝食を共にできることが大きかったからです。特に金融や公的機関出身の方々と深い交流ができたのは大きな財産になりました。」

岩崎さん(株式会社日本マンパワー修了)

「私は日本マンパワーに通いました。私も正直に言うと、2次試験がどうしても突破できなくて…。2次試験に2度挑戦しても歯が立たず、試験ルートは厳しいと実感しました。そこで確実に診断士になれる道として養成課程を選択。体系的に学べる点も大きな魅力でした。」
川腰さん(公益財団法人日本生産性本部修了)
「診断士の師匠に憧れて資格を目指しました。2次試験で不合格となり、半年で修了できる日本生産性本部を選択。厳しい指導のもとで鍛えられ、基礎から実務まで徹底的に学べたのが自分にとって大きな糧となりました。ハードな生活だったので半年で5キロも太りました(笑)。」

木村さん(法政大学大学院修了)

「私も皆さんと同じで、2次試験の難しさにやられてしまったタイプです。2次試験に確信が持てず、「同じ1年を使うなら確実に」と養成課程を選びました。独立を見据えて仕事を辞め、全日制の法政大学に進学することにしました。リスクはありましたが、診断士を必ず取るという覚悟が固まり、良かったと思います。」
櫻井さん(日本工業大学専門職大学院修了)
「私は日本工業大学に行きました。1次試験を通るのに3年かかり、やっと受かって2次試験を受けたら落ちて…。次の2次試験も落ちたらきっともう1次試験には受からない、と思って、以前から興味があった養成課程進学を選びました。結果的に正解だったと思っています。」

梶(日本工業大学専門職大学院修了)
「私は製造業で理系の研究職に就いていたのですが、中小製造業とお付き合いする中で経営の知識を身に着けたいと中小企業診断士の資格勉強を始めました。1次試験合格後、2次試験は受験せず、養成課程進学一本で考えていました。養成課程は体系的に知見を学べ、実習を通して実践的な実力を身に着けることができることが決め手でしたね。働きながら通えて、1年で修了できる日本工業大学専門職大学院に進学しました。」
トークテーマ②養成課程で大変だったことや、学びになったことを教えてください。
塩津さん(中小企業大学校修了)
「大学校は半年間、東大和の寮に入ります。寮にはテレビもないし、消灯時間もあって、そういう意味では、世間から隔離されたような感覚になりました。ただ、その分仲間との結束はすごく強まりました。
大学校の同期は金融機関や公的機関の人が多く、本音ベースの情報が聞けたのは大学校ならではの経験でした。あと特徴的だったのは“窓口研修”。三日間、相談窓口のロールプレイをする研修で非常に参考になりました。
診断士になってから創業相談等をやっていますけど、その基礎はここで経験できました。さらに、同じ時期に経営後継者研修もあり、合同で研修をやったりもした。これは大学校でしかできない貴重な経験だったと思います。」
岩崎さん(株式会社日本マンパワー修了)
「1番大きかったのは、信頼できる仲間に出会えたことです。業種も年齢も違う人たちと深い付き合いができて、一生もののご縁になりました。実習では、特に製造業の実習は現場感覚が面白く、自分の視野が一気に広がったと感じました。
また、普段はPowerPointやWordを使う機会がなかったので、プレゼンや報告書づくりでスキルが大きく向上しました。大変だったのは、仕事と両立しながら通ったこと。仕事の繁忙期なのに、実習のために休みをとる必要があったり、残業できないのは心苦しかったですね。
金曜の夜は徹夜で報告書を書いて、土日は夜遅くまで修正や報告資料作成。体力的にきつくて睡眠を削る日々でしたが、仲間と励まし合って乗り切れました。」
川腰さん(公益財団法人日本生産性本部修了)
「日本生産性本部では“行動変容”って言葉を良く言われました。コンサルはどんなにいい提案をしたとしてもお客さんが実際に動いてくれないと意味がない。だから『提案して満足するな、行動を変えてもらって初めて価値がある』って、どのインストラクターも仰っていました。今でも印象に残っていますね。
あと、大変だったのはやっぱり実習です。全5回あって、9泊10日泊まり込みで実施されるのですが、ある実習の際に体調を崩してしまい、その翌日が発表のリハーサル。
もう“これは終わったな”って思いましたが、仲間が支えてくれて、なんとか切り抜けられました。あのときは本当にしんどかったけど、同期のありがたさを心から実感しました。」
木村さん(法政大学大学院修了)
「皆さんと同じで“仲間”は大きかったですね。あと、卸・飲食・製造…と幅広い業種の診断実習を回れたので、卒業後に“どの会社でもまず何から考えるか”を体系立てて掴めたのは収穫でした。実習を通じて自分の“型”として持てるようになった感覚があります。
一方で、全日制の養成課程はやっぱり大変でした。予定や課題を詰め込みがちになるけど、どれも重いので、優先順位をつけて効率的に回さないと、すぐ破綻してしまいます。また、法政大ではMBAの修士論文(プロジェクト)と診断実習を両立させる必要があって、調整が難しかったです。
ここは1番大変だったところですね。結論、全部完璧は無理なので、取捨選択する勇気と、チームの調整力が問われると実感しました。」
櫻井さん(日本工業大学専門職大学院修了)
「得られたものは、何より仲間です。また技術経営修士(MOT)を取れたことも大きかったです。まだ直接活かしきれてはいませんが、他の養成課程との差別化にはなると思っています。さらに、大学院を通じてお仕事にもつながったことがうれしかったです。
1番大変だったのは、最初の実習で班長になった時。本業や家事育児との兼ね合い、班長のプレッシャーなどから体調を崩してしまいましたが、メンバーの皆様の協力のおかげでなんとかやり遂げられました。打ち上げの日にやっと服薬が終わり、お酒が飲めたときは本当にホッとしましたね(笑)。
もう1つ、養成課程の中盤から後半の時期に、特定課題研究(修士研究のようなもの)・授業の課題・実習の報告書作成の3つを同時並行でやらなければいけなかった時も、時間がなくて終わりが見えず、つらかったです。」
梶(日本工業大学専門職大学院修了)
「やはり一番大変だったのは、仕事と大学院の両立です。平日はもちろん仕事中心で週2日夜に授業。土曜日は朝から晩まで座学とグループワーク。特に診断実習の時期は、夜中まで議論を続け、翌朝プレゼンという日もありました。でも不思議と苦ではなく、「これをやりきれば必ず力になる」という確信がありました。チームで助け合いながら成果を出せた経験は、今でも強く印象に残っています。
皆さんもお話しされていましたが、私も養成課程で得た“仲間”はかけがえのない存在だと思っています。普段の仕事では出会えない、独立士業、外資系、銀行、商社、コンサル、そして私のような製造業勤務など、職業も年代もさまざまな人たちが集い、同じ目標に向かってグループワークや実習に取り組みました。多様な価値観の中で議論を重ねた時間は、自分にとって大きな財産になっています。」
トークテーマ③養成課程を修了して現在役立っていることを教えてください。また、養成課程進学を検討している人へアドバイスお願いします。
塩津さん(中小企業大学校修了)
「養成課程の経験は仕事上すごく役立っていますね。人脈もそうだし、何より“横のつながりで物事を進める力”がついたのが大きいです。養成課程って、上下関係じゃなくフラットな仲間同士で議論してまとめていく経験を長い期間続けるので、自然とそのスキルが身につくんです。実際、診断士になって協会活動で“この人チーム運営うまいな”と思うと、養成課程出身の人が多いですね。
独立を考えているなら養成課程の方が断然いいと思います。即戦力になりますし、修了までの準備期間を通じて独立後を考える余裕も持てますね。」
岩崎さん(株式会社日本マンパワー修了)
「役立っているのは、“考え方が変わった”ことです。まず現状(As-Is)を書き出して、フレームワークで整理して、ゴールからのバックキャストで組み立てる——この流れが体に染みつきました。『そもそも課題は本当に課題か?』って立ち止まれるようになったのも大きいです。実務面では、診断報告書づくりの力がかなりつきました。神奈川県協会の研究会で、社長をお招きして“個人で”報告書を提出する機会があったのですが、構成からまとめ方までスッと手が動いたんです。フィードバックで、社長の“印象に残った報告書”に挙げてもらえたのも、養成で場数をふんだおかげだなと感じました。
養成課程はお金も時間もそれなりにかかりますけど、行って後悔はしないと思います。許される状況なら“行く”をおすすめします。思考の型が身につくし、報告書やプレゼンの実務力も鍛えられるし、何より一生ものの仲間ができます。」
川腰さん(公益財団法人日本生産性本部修了)
「やはり実習で実際に経営課題を解決した経験です。ある卸売業での実習では、新規先営業に時間が割けていないという問題を解決する第一歩として「営業担当者の時間を創出する為に、現在直接集金している小売店への売上金を銀行振込に変更依頼する」という提案を行いました。社長様からの許可を得て、私が自ら営業に同行し、理由を説明しつつお願いしたところ、意外なほどあっさりと振込みに変更していただけました。営業担当者の方も驚き、感心していただきました。経営課題を解決するには相手の行動を変えることが肝要ということが理解できました。現在の仕事にも大いに役立っています。
僭越ですがアドバイスするとしたら、個人的な見解としては診断士で成功したいのであれば養成課程に行かれた方がいいと思います。なぜなら、自分の本質的な長所、短所、興味がある専門分野が見つかる可能性があるからです。超厳しい環境で鍛えたいという方は日本生産性本部の門を叩いてみてください(笑)。」
木村さん(法政大学大学院修了)
「いちばん大きいのは“人脈”ですね。今の仕事は、法政の仲間や先生、先輩のつながりから生まれているものが多いです。補助金の案件も、研修講師の仕事も、PRの仕事も、そこから広がっています。独立しても“なんとかやれている”のは、このつながりのおかげだと思っています。もちろん実務スキルも身につきました。診断実習や講義を通じて、実践的に使える知識やスキルがストックされて、それが仕事に活きていると感じます。
養成課程のいいところは“診断士資格を取るのが前提”になっていること。つまり、諦めない限り資格は取れる。だから2次試験の勉強に追われるのとは違って、取った後をどう動くか、準備期間を持てる。同じ1年でも意味合いが全然違うと思います。そこに時間とお金をかける価値は十分あると思うのでおすすめです。」
櫻井さん(日本工業大学専門職大学院修了)
「授業で学んだフレームワークは今でもセミナーや資料づくりに活きています。特にマーケティングや価格設定の基礎知識は、実際にセミナー内容に組み込んで活用しています。PowerPointを徹底的に使ったおかげで、作業が早くなりデザイン性も上がって、お客様からも「資料が見やすい」と、ご好評をいだたくようになりました。実習ではインタビュー力や議事録のまとめ方が鍛えられて、“人から話を引き出して整理する力”がついたのも大きかったと思います。
養成課程の良さは、資格が取れるだけではなく、それ以上のものが得られることだと思います。2次試験の場合、合格後に実務補習や実務従事でポイントを取って登録しますが、養成課程では、同じメンバーでチームを組みながら5回の実習を重ねます。仲間の得意分野と苦手分野を理解しながら助け合っていける。その経験は養成課程ならではだと思います。みんなで成長していける本当に特殊な環境でした。5回の実習経験は、企業の経営診断の実践力向上にもつながるので、すぐに診断士の実務に活かしたい人には、養成課程はとてもおすすめです。」
梶(日本工業大学専門職大学院修了)
「養成課程を通して、診断士としての理論的な整理力や、現場でのヒアリング・提案力が確実に身についたと実感しています。養成課程の実習で培った「課題を深掘りする力」は、今の企業支援やセミナー講師の場面でも役立っています。また、養成課程で取り組んだ中小製造業に関する研究テーマは、私のコンサルティングメソッドの1つになっています。あの頃の仲間とは今でもつながりがあり、それぞれが別の現場で成果を出していることに大きな刺激をもらっています。
これから養成課程を考える方に伝えたいのは、”養成課程は決して資格を取得するためだけのプロセスではない”ということです。やり抜いた先にあるのは“資格”以上の学びと仲間です。養成課程は、診断士としてだけでなく、社会人としての次のステージに踏み出す最高の機会だと思います。」

所感
今回の座談会では、養成課程の「大変さ」と「得られる力」が率直に語られました。2次試験に悩んで養成課程を選んだ人、実習や研究との両立に追われた人。それぞれの体験には深い重みがありました。
共通していたのは「仲間と共にやり抜いた経験が今の自分を支えている」ということです。横のつながりの中で磨かれた実践力や、困難を乗り越えた達成感は、診断士としての大きな土台となっています。養成課程は決して楽な道ではありませんが、その先には確かな成長と仲間との強い絆が待っています。今回の座談会を通じ、養成課程の真の価値を改めて実感しました。
【梶 敦次】
番外編:ご自身の出身養成課程の自慢したいところを教えてください。
・公益財団法人日本生産性本部:全国での泊まり込み実習、交通費・宿泊費の支給制度あり。
・日本工業大学専門職大学院:養成課程で唯一MOT取得が可能、神保町キャンパス周辺の名物カレー
も魅力。
・株式会社日本マンパワー:課題は基本的に授業内で完結、神田立地で飲み会も盛ん。
・法政大学大学院:MBA取得やゼミ合宿、縦のつながりと在学生ブログが強み。
・中小企業大学校:金融・公的機関出身者との交流、寮生活や研修で結束とネットワークが魅力。
以上




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