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公益財団法人川崎市産業振興財団― 技術都市・川崎を支える支援の現場

研究開発型企業やスタートアップが集積する川崎市。臨海部には「殿町国際戦略拠点 キングスカイフロント」を中心に先端研究拠点が広がり、ナノ医療や量子技術などの分野でも注目を集めています。 こうした地域において、中小企業支援の中核を担っているのが公益財団法人 川崎市産業振興財団です。

今回は、同財団で長年企業支援に携わり、ご自身も中小企業診断士として活動されている総務課長の村田英嗣様に、組織の歩みや支援の特徴、そして診断士としての想いについてお話を伺いました。

公益財団法人 川崎市産業振興財団
総務課 総務課長/中小企業診断士
村田英嗣様

■ 技術都市・川崎とともに歩んできた財団の歴史

―― まずは財団の設立背景やこれまでの変遷について教えてください。

川崎市産業振興財団は1988年4月に設立されました。当初は産業振興会館の管理・運営が中心であり、現在のような中小企業支援を主軸とした組織ではありませんでした。当時の川崎市は先端技術産業の集積を進めており、ハイビジョン実験放送や通信分野など、技術志向の取り組みが進んでいた時代背景があります。そうした技術都市としての流れの中で財団も役割を広げてきました。

2001年の中小企業支援法に基づき指定法人である中業企業支援センターに指定され、財団は本格的に中小企業支援機関としての機能を担うようになります。相談対応や専門家派遣の仕組みが整備され、市内企業の経営課題に対して伴走型で関わる体制が強化されていきました。その後、かわさき新産業創造センター(KBIC)やナノ医療イノベーションセンター(iCONM)の整備、さらには殿町国際戦略拠点キングスカイフロントの形成など、研究開発型企業を支えるインフラが拡充され、財団の支援領域も大きく広がっていきました。

現在は産業振興会館を拠点に、研究開発支援、起業家支援、海外展開支援など、多様な施策を通じて地域産業の成長を支えています。

■ 中小企業支援センターとしての役割と支援メニュー

―― 財団の中小企業支援にはどのような特徴がありますか。

専門家派遣や相談対応が中心となりますが、単なる受け身の窓口ではありません。企業の状況を丁寧に把握し、支援メニューをこちらから提案していく姿勢を大切にしています。企業自身が気づいていない選択肢を提示し、次の一歩を後押しすることが支援機関の重要な役割だと感じています。

これまで財団では製造業支援を中心に施策が進められてきました。ロボット関連のイベントや技術発信の場づくりなど、自社技術を社会に示す機会を創出してきた歴史があります。企業にとって技術を披露する場は限られており、発信の機会そのものが価値になっていたといいます。

一方で近年は、食品分野やサービス業など、新製品開発や販路開拓の相談も増えており、支援対象は多業種へと広がっています。現在残っている製造業は高度な技術力を持つ企業が多く、開発期間も長期化しています。そのため、単なる技術支援ではなく、マーケティングや販売戦略まで含めた支援が求められるようになってきました。

海外ビジネス支援センター(KOBS)を通じた海外展開支援など、市の施策と連動した支援も実施されています。製造業だけにとどまらず、ライフサイエンス分野やスタートアップ支援など、多様な産業領域へ広がっている点も特徴です。

■ 変化する製造業支援と企業ニーズ

―― 支援現場ではどのような変化を感じていますか。

10年前は、何から始めればよいか分からないという企業も多く、経営の土台づくりから支援するケースが中心でした。現在は経営デザインシートなどの普及により、企業自身が課題をある程度整理している場面が増えています。その結果、支援内容はより個別テーマへの対応へと変化してきました。

最近は人材に関する相談が増えており、外国人材の受け入れなど法的な視点を伴うケースでは行政書士と連携しながら対応しています。また、生産工程の改善は進んでいる企業が多い一方で、バックオフィスのデジタル化はまだ課題が残っています。管理部門のDXは思った以上に進んでいない企業も多く、会計システム導入などでも苦労されているケースが見受けられます。

企業のニーズが細分化している現在では、財団側で調整役となり、適切な専門家や支援制度につなげる役割がより重要になってきています。

■ 研究開発拠点を活かした川崎ならではの支援

―― 研究開発拠点との連携について教えてください。

図1. 殿町国際戦略拠点 キングスカイフロント (公式HPより)

殿町国際戦略拠点 キングスカイフロントには多くの研究機関が集積しており、財団はそれらと中小企業をつなぐ役割を担っています。例えば、研究所で使用する実験治具の試作を中小企業と結びつけ、POCとして支援した事例があります。研究と町工場の技術が結びつくことで、新しい可能性が生まれる場面もあります。

研究から事業化に至るまでにはいわゆる死の谷が存在します。研究は文部科学省系、事業化は経済産業省系といった制度の違いもあり、その橋渡しは簡単ではありません。財団では研究成果が社会実装へと進むよう、試作支援や企業マッチングなど、現実的な規模感での支援を行っています。

ナノ医療イノベーションセンター(iCONM)では創薬系スタートアップの支援も進んでおり、株式設計やストックオプションなど高度な相談に対応する場面も増えています。

図2. ナノ医療イノベーションセンター(iCONM)(公式HPより)

■ 起業家支援と「かわさき起業家オーディション」

―― 起業家支援の取り組みについて教えてください。

かわさき起業家オーディションは年4回開催され、応募のしやすさと継続的な支援を重視しています。協賛企業と関係性が生まれることも大きな特徴で、単なる表彰にとどまらず、ビジネスプランを後押しする場として機能しています。株式会社SHIFT様もこのオーディションから成長した企業の一つであり、長年にわたり成功事例として語り継がれています。

■ 神奈川県内支援機関との連携

―― 他の支援機関との連携についてはいかがでしょうか。

神奈川県、横浜市、川崎市、相模原市などの産業支援機関と情報交換を行いながら連携しています。CASE対応など自動車産業の構造変化に向けた支援では、複数団体が役割分担し、地域横断型の支援体制が構築されています。枠がいっぱいになった場合には他機関へつなぐなど、地域全体で企業支援を行っています。

■ 中小企業診断士として見つめ直した支援の本質

―― 村田様ご自身も中小企業診断士として活動されていますが、支援への考え方はどのように変わりましたか。

最初は自分のノウハウを提供することが役割だと考えていました。しかし実際の現場では、企業の話を丁寧に聞き、対話を通じて課題が整理されていくことが多いと感じています。企業は話すことで自分たちの強みや課題を再認識することがあり、そのプロセス自体が支援につながっています。

技術力の高い企業であっても、自社の違いを言語化できていないことがあります。前工程や後工程の組み合わせ、アレンジ能力こそが強みである場合も多く、それを引き出す対話力が診断士には求められていると感じています。

■ HowではなくWhatを共に考える支援

―― 診断士として大切にしている視点はありますか。

企業からは具体的なHowを求められる相談も多いですが、それだけであれば民間同士でも解決できる部分があります。公的支援として重要なのは、何を目指すのかというWhatを一緒に考えることです。専門性だけでなく、企業の話をよく聞き、対話の中で課題を整理できる診断士が活躍していると感じます。信頼関係を築きながら本質的なテーマに向き合い、企業が次の一歩を踏み出す瞬間に立ち会えることが、この仕事の魅力だといいます。

■ 公的支援の現場で感じる葛藤とやりがい

―― 支援現場で感じる難しさについて教えてください。

無料支援という枠組みの中で、どこまで踏み込むべきかという線引きには常に悩みがあります。また、成果がすぐに見えない場合もあり、支援の質を自問自答することもあります。それでも、困ったときに寄り添った企業とは長い関係が続き、公的支援の意義を感じる瞬間につながっています。

■ 中小企業診断士へのメッセージ

―― 最後に、中小企業診断士へのメッセージをお願いします。

専門性はもちろん重要ですが、それ以上に企業との対話を通じて課題を整理できる力が大切だと思います。公的支援はきっかけに過ぎません。その先で企業が自ら進んでいけるよう、本質的な部分に向き合える診断士の方と一緒に支援を続けていきたいと考えています。

■ 所感

川崎市産業振興財団の支援は、研究開発拠点を背景とした技術都市ならではの取り組みであると同時に、企業との対話を重視した伴走型支援でもあります。支援機関の職員でありながら中小企業診断士としても現場に向き合い続けてこられた村田様の姿勢からは、常に支援の本質を問い続ける真摯さと深い洞察力が感じられました。公的支援の現場で積み重ねてこられたご経験と診断士としての視点が、現在の支援スタイルに確かな説得力を与えているように思います。技術と経営の橋渡し役として、診断士がどのように関わっていくのか、その示唆に富んだヒントが、川崎の支援現場には確かに存在していると感じました。

【梶 敦次】

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