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連載企画 取適法施行と中小企業経営戦略 (1)価格転嫁の現状

はじめまして。重田義人と申します。(令6会員)

私は製造業の中でも20年以上にわたって自動車業界で仕事をしてきました。業務は一貫して購買・調達の分野に携わっております。この分野でのキャリアを意識してきたわけではありませんが振り返るとこの分野にどっぷり浸かっています。

最近は物価上昇対策、賃上げ、下請法の改正など買う側の調達環境や売り手企業との関係性の変化など互いの取引環境が大きく変化しています。今回から4回にわたり「下請法改正後の中小企業の経営戦略」の観点から特に「価格転嫁」に焦点を当てて、中小企業が今後取るべき方針や留意点などをお伝えしていきます。

■価格交渉促進月間のフォローアップ調査結果

2021年9月より、経済産業省が主導して毎年9月と3月を「価格交渉促進月間」として設定をしています。これは昨今の原材料価格やエネルギー価格、労務費等の上昇分を、中小受託事業者が適切に取引先に価格転嫁ができるよう、発注側企業と受注側企業の価格交渉の促進を目的としたものです。また、この年2回の価格交渉促進月間のフォローアップ調査結果も公表されております。

直近の調査結果である2026年3月の「価格交渉促進月間フォローアップ調査結果」によれば業種全体の価格転嫁率は54.2%となっています。
・価格交渉が行われた割合 90.7%
・全体の価格転嫁率 54.2% (内訳 原材料:55.7% エネルギー費:48.9% 労務費:50.0%)
*価格転嫁率とはコスト上昇に対する実際の価格引き上げの額の割合

さて、皆さんは今回の全体の価格転嫁率54.2%という数字をどう感じられますか?思ったより高い?または低いでしょうか?

■価格転嫁率の推移と課題

2022年からの全産業における同調査結果の価格転嫁率の推移を見ると、2025年3月の調査結果から価格転嫁率が50.0%を超えており、直近で54.2%まできているのが現状です。

また、併せてフォローアップ調査では以下のような傾向も明らかになっています。
・価格転嫁率の構造的課題(1次請け:55.2% 4次請け以降:45.5%)
・業種間格差(化学・機械製造分野などが改善傾向に対してトラックなど運送分野では悪化)

全業種では徐々にではあるが価格転嫁率は改善傾向ではある一方、多重下請構造により取引階層が深い中小受託事業者ほど価格転嫁が進んでいない構造的な問題や、価格転嫁が進んでいる分野と悪化している分野の格差が広がっている実態も報告されており、サプライチェーン全体の価格転嫁は様々な課題が残る状況になっています。

■価格転嫁交渉の現場から

「価格交渉が行われた割合」が90.7%という数字が示すように、自身の感覚からも以前より価格転嫁交渉が行われる点においては浸透してきていると感じます。一方で時折、取適法違反のニュースが世間を賑わせている事実を鑑みればまだまだ十分ではないともいえるのかもしれません。

また、価格転嫁を進めるための課題の一つは、自身の経験から中小受託事業者が値上げの説明をロジカルに説明することだと考えています。原材料費、労務費、エネルギー費などの動向を客観的に示している指標は世に多く出回っています。自社で行っている原価管理とそれらの指標を活用したロジックで価格交渉を行うことが王道だと私は考えています。しかし、原価管理を十分に行うには手間と人手が必要になる反面すぐに売上や収益向上につながるものではなく、十分に実施できていない中小受託事業者は多いと考えています。

ただし、長い目で見ると原材料費や労務費、エネルギー費は今後も変動します。これらの費用変動をタイムリーに価格転嫁を進めていくうえでは常日頃の原価管理は価格転嫁交渉には必須であり、その重要性や必要性は今後も増していくと考えています。

■まとめ

今回は価格転嫁の現状を価格転嫁率などの調査結果を踏まえて見てきました。また、そのデータから読み取れる課題、私自身が日常業務の中で感じる価格転嫁の実態などにも触れさせて頂きました。現状や課題から見て取れる通り価格転嫁に一発逆転ホームランはありません。経営環境の変化、市場経済の変化、市況の変化などをうまく取り込みながら取引先と進めていくことがポイントになります。

次回は、取適法改正で買い手と対等なパートナーとなるに当たっての課題について取り上げたいと思います。

*取適法:製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律
(略称:中小受託取引適正化法)

【重田 義人】

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