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連載企画 人とAIの共創時代 (1) 私たちはまだAIの能力を引き出せていない

昨年度(2025年度)に引き続き、今年度も「人とAIの共創時代」をテーマに連載を担当させていただきます。私は、中小企業診断士および大学教員として、神奈川・東京を中心に、企業支援とAI・データサイエンス教育に携わっています。本連載では、AIをめぐる最新の動向を分かりやすく読み解くとともに、企業経営や人材育成、日々の仕事にどのように生かせるのかを考察していきます。AIを単なる便利な道具として捉えるのではなく、人とAIがそれぞれの強みを生かし、新たな価値を生み出すためのヒントをお届けします。

生成AIが急速に普及するなか、「AIによって人間の仕事が奪われるのではないか」という不安が広がっています。文章の作成、プログラミング、データ分析、顧客対応など、これまで人間が行ってきた仕事の一部を、生成AIが短時間で処理できるようになったためです。しかし、AIが技術的にできることと、実際の職場で行っていることは同じではありません。AIの能力を考えるときには、理論上の可能性と現実の利用状況を分けて捉える必要があります。

1.AIの「理論上の能力」と「実際の利用」

米国のAI企業Anthropicは、2026年3月に公表した調査報告書(*)において、AIが労働市場に与える影響を測定するための新しい指標として、「観測された曝露(observed exposure)」を提案しました。

ここでいう「曝露」とは、ある職業の業務がAIによる自動化や効率化の影響を受ける程度を意味します。これまでの研究では、主に「その業務を大規模言語モデルによって理論上どの程度効率化できるか」が評価されてきました。しかし、技術的に実行可能であっても、法律上の制約、専用システムとの接続、人間による確認や意思決定の必要性、企業側の導入体制などによって、実際にはAIが利用されていない業務も少なくありません。

そこでAnthropicは、理論上のAI能力だけでなく、Claude(Anthropicの生成AI)が実際の仕事でどのように利用されているかを組み合わせました。さらに、AIが人間を補助する利用よりも、AIが業務を自動的に処理する利用を重く評価し、その業務が職業全体に占める時間の割合も考慮しています。つまり、「観測された曝露」とは、AIができる可能性ではなく、実際の職場においてAIによる自動化や代替がどの程度進んでいるかを示す指標と捉えることができます。

2.AIはまだ能力の一部しか使われていない

調査結果から明らかになったのは、AIの実際の利用範囲が、理論上可能な範囲よりもかなり小さいということです。例えば、コンピュータ・数学関連職では、仕事を構成する業務の94%に大規模言語モデルを活用できる可能性があると推定されています。一方、コンピュータ・数学関連タスクで実際にClaudeの利用が確認された業務は33%にとどまりました。職業別では、コンピュータプログラマーの観測された曝露が75%と最も高い一方、料理人、整備士、救命員、バーテンダーなど、身体的作業や対面業務を中心とする職業では、AI利用がほとんど観測されていません。この結果は、現在の生成AIが能力を十分に発揮していないことを意味します。言い換えれば、生成AIは「役に立たない」のではなく、組織や個人が、AIを仕事の流れに組み込む方法をまだ確立できていないのです。

3.問われるのはAIの能力ではなく、人間の使い方

AIが仕事を変えるかどうかは、AIの性能だけでは決まりません。企業や働く人が、AIにどのような役割を与え、どの業務を任せ、人間がどこで判断するのかによって結果は大きく変わります。現在、私たちはAIの能力の一部しか利用できていません。だからこそ、AIを単に人間の仕事を奪う存在として恐れるのではなく、人間の能力を補い、ともに価値を生み出す存在として捉える必要があります。

これからの時代に重要なのは、「AIに何ができるか」を知ることに加え、「AIとどのような関係を築くか」を、私たち自身が主体的にデザインすることです。私自身、中小企業診断士として、各企業固有の業務フローや、経営者・従業員の意向を丁寧にくみ取りながら、人とAIが互いの強みを生かせる最適な関係性を構想し、その実現を関係機関と連携しながら支援していきたいと考えています。

【井上 雅之】

(*) https://www.anthropic.com/research/labor-market-impacts

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