診断士インタビュー
後藤昌治さん
会員
診断士の匠「ITコンサルティングの勘どころ」
- 経験豊富なベテランの協会員より、経験談や診断士へのメッセージを頂戴しました。今号は、コンサルティング会社を経営されている傍ら、協会登録Gの『ビジネスIT研究会』を主宰されている後藤昌治さんです。
- プロフィール
- 2015年診断士登録
(株)日立製作所、(株)アイタス、(株)翻訳センターを経て、2016年に独立、
現在、MSGコンサルティングオフィス代表
- 現在のお仕事について教えてください。
- 2016年よりMSGコンサルティングの代表を務めています。
業務の内訳は、セミナー・研修関係が50%、コンサルティング/アドバイザー業務25%、スポット的にIT関連の公的な業務をやっています。
診断士として、いろいろと勉強はしてきましたが、やはり自分の得意分野であるIT領域での仕事を伸ばしてきました。
セミナーではIoT関連の技術研修、データ分析・AIが中心ですが、中小企業のデジタル化の流れの中で、中小企業へツールを拡販したいITベンダーさん向けの教育なども多くなっています。
コンサルティングでは、他の診断士さんとチームでコンサルをする中でIT領域を分担したり、IDEC(横浜企業経営支援財団)の専門家として企業支援に携わったりしています。業種では製造業が多く、IT・IoT化による現場改善支援、情報セキュリティ関係が中心です。コンサルの入口がIoTでも、データがつながっている業務領域、たとえば、電子帳票化(紙の帳票をタブレットで入力する)など、中小企業のIT全体が広くスコープにはいってきます。このところのデジタル化の流れもあり、例年と比べ繁忙感がありますね。
- コンサルタントとして大切にされていることは何ですか?
- 『ITで解決するべき課題は何か』と事業者へ『問う』ことです。
経営者自身がITで何をしたいのか、必ずしも、わかっていない場合もありますから、ITツールを入れたいと相談があったときに、そんな質問をします。たとえば、ITで在庫管理を改善したいという相談があったときのことです。実際に現場を見てみると、在庫量が多く、管理には問題がありそうでした。しかし、よく検討してみたところ、在庫管理ではなくて生産工程管理がデジタル化されていないことが根本的な原因とわかりました。経営者は現場が困っていることをそのまま課題と捉えがちですが、根本的な課題を一緒に考え、気づいてもらうことが大事なのですね。
次に、ITの成熟度を見て、現場で実際に使えるものを提案するようしています。たとえば、事業者がERPを導入したいという相談でも、その会社が使いこなせるか、実はエクセルのほうがよいのでは、というケースもあります。あまりコストが高くつくものは現実的ではないので、費用対効果もあわせて検討します。ITの成熟度については、受注から納品までの業務プロセスをスルーして調べ、おおよその見当をつけるようにしています。
その他、『ベンダーさんのツールを入れたけれど使えない、どうすればいいか』、といった相談がしばしばありますが、使い方も含めて腹落ちする前に、先にいれてしまったというケースが多いようです。IT領域ではツールをいれるだけでなく、導入した後も、どう活用していくか、事業者のみなさんと一緒に考えていくことが大切ですね。よく知られているとおり、中小企業のITで大きな課題は人材が育っていないことです。ツールをいれた後も一緒に使い方を考え、その過程で、人を育てるようにこころがけています。私たちのコンサルティング・支援活動には終わりの時期がきますが、導入したツールは会社の中でノウハウをためて永続的に活かしてもらいたいと思っております。
また、ITのコンサルでは忍耐力も大事です。まず、事業者の皆さんはITにあまり時間を割けません。提案を理解してもらってから実行に移るまでに半年、1年、時には2年もの時間がかかることもあります。コンサルサルティングの中においても、こちらから先回りして答えを出したりせず、会社の人にまず考えてもらう、そして、それを修正していくというプロセスで力をつけてもらうようにしています。また、IT化の進め方がわからない、という悩みもよく聞かれますので、進め方・手順から始まって、ひとつひとつ丁寧に解説・検討しながら進めるようにしています。時間がかかるITコンサルにおいては、信頼関係づくりも大事です。経営者はIT領域を会社の若手に任せることが多いものですが、親身になってコミュニケーションをとることで、ジェネレーション・ギャップも解消していきます。
もうひとつ、大切にしていることはIT用語をわかりやすく説明することです。あるIoTのセミナーで通信プロトコルという言葉を使ったところ、『プロトコルとはなんですか』という質問がありました。事業者の皆さんは『わかっているようで、わかっていない』ことが多いものです。そうした経験も踏まえて、できるだけ、やさしく説明することを心がけています。
- 2016年に起業されていらっしゃいますが、きっかけは何だったのでしょうか?
- 最初は大企業で働いていたのですが、もっと、自分の裁量で仕事をしたいという想いが高じて、社長との距離が近い中小企業に移り、ビジネスを自分で進める経験を積みました。今、振り返るとそこで、独立・起業への意欲がでてきたように思います。その後、起業の準備のために、再度、転職し、その会社内の情報システムのコンサルタントとしてシステム企画を担当しました。ちょうどその時期に、経営知識の補充のために中小企業診断士の資格に挑戦し、その過程で中小の製造業者を実際に診させていただきIT領域でお手伝いできることがありそう、という感触をつかみました。
- 登録G『ビジネスIT研究会』を主宰されていますが、良い機会なので、ご紹介いただけますか?
- 旧『ものづくりPJ』から発展解消してできたグループです。中小企業が実際に使えるITツール・仕組みを研究し実践することをテーマにしていまして、①まずツールや仕組みの勉強会、②事業者にツールを紹介できるようにITベンダーと交流すること、③IT支援を実践し実務ポイントを取得すること、の3本柱です。こうした取り組みに興味がある人は一緒にやりましょう。
- 最後に、診断士へのメッセージをお願いします。
- 自分も独立して4年目で決して経験豊富と言えませんが、日頃の支援で大切にしていることが、いくつかあります。まず、これは先輩診断士からの教えでもありますが、多少未経験の分野があっても飛び込んでみることです。診断士の仕事では多かれ少なかれ、未知の領域があるのは常です。経験がないことを理由に積極的に入らない方もいらっしゃいますが、経験は自ら作っていくものです。とにかくやってみることが重要です。資格取得までに多くの知識・理論は学んできていますが、コンサルティングの現場での振る舞い方は、実践して初めてわかります。具体的な方法として、先輩診断士に同行すること、協会・士会の諸制度を活用することもお勧めですね。もうひとつは、支援先のみなさんと一緒になって課題に取り組むことです。仮に自分が解決できるとわかっていても、一緒に考えて道筋をつけることで、人や組織は成長するものです。困りごとの解決はもちろんですが、人材育成を通して企業の成長を応援するのも大切だと、お伝えしたいです。
- IT領域を中心に貴重な経験談や、診断士へのメッセージをいただきました。ITを専門とされる方は、もちろんですが、独立を予定されていらっしゃる方、独立して間もない方にも参考になるアドバイスだったのではないでしょうか。
後藤様には取材へのご協力を御礼申し上げるとともに、今後とも、益々のご活躍を祈念しております。
【宮村康彦】