連載企画 人的資本経営は攻めの経営戦略になる (4) 魅力的な会社を目指す
人的資本経営の取り組みについての記事も最後になります。今回は改めて人的資本経営×採用をテーマに最後のメッセージを届けさせていただきます。
1.採用においては「魅力を伝えること」と「魅力そのものを高めること」の両立である
中小企業・小規模事業者が重視する経営課題を確認すると、「人材確保」と回答する割合が最も高い。人材を確保するため、多くの経営者や人事担当者は採用手法に注力しているといえる。目標採用人数と予算をもとに採用チャネルを設計し、チャネルごとの課題を可視化したうえで改善を重ねている。もちろん、これは採用を最大化するうえで必要な取組である。ただし、どれほど採用手法を工夫し、自社を魅力的に見せたとしても、組織の実態に魅力がなければ、人材は定着しない。もし組織そのものに課題があるのであれば、本来取り組むべきは採用手法ではなく、組織づくりであるのかもしれない。
2.魅力的な組織を感覚で作ることは危険である
「魅力的な組織をつくろう」と口にすることは簡単であるが、それを、再現性を持って実現する仕組みを備えている企業は多くない。従業員が高いモチベーションを持って働ける環境をつくるには、どのような要素を考慮すべきであろうか。
例えば、モチベーションを高める考え方の一つに、ハーズバーグが提唱した二要因理論がある。これは中小企業診断士にとってもなじみのある理論であり、人のモチベーションは①動機づけ要因、②衛生要因の二つに左右されると定義されている。これまでさまざまな職場で働く人々と面談してきた経験を踏まえると、動機づけ要因と衛生要因の双方に適切にアプローチすることが重要であると考える。いずれか一方に偏った対応では、離職を防ぐことは難しい。
図1 ハーズバーグの二要因理論
| 効果 | 二要因理論 | 例 |
|---|---|---|
| 満足をもたらす要因 | 動機づけ要因 | ・達成感 ・仕事への責任 ・昇進 etc |
| 不満足をもたらす要因 | 衛生要因 | ・会社の方針 ・給与 ・労働条件 etc |
ここで、「動機づけ要因」について一つのポイントを見てみたい。例えば、達成感や昇進の実感につながる施策の一つとして、人事評価制度が挙げられる。帝国データバンクの「令和6年度中小企業の経営課題と事業活動に関する調査」では、約6割の事業者が人事評価制度を未導入であると回答している。しかし、ここで注意すべきは、未導入の理由として「経営者が全従業員の状況を把握している」という回答が最も多い点である。人を評価することはもともと難しく、評価にはバイアスが生じやすい。明確なルールがなければ、一貫性を保った運用は困難である。
運用が難しくなるような、複雑な人事制度を作る必要はない。まずは従業員が何を目指せば評価されるのかがわかるよう、評価のポイントを可視化することから始めてみよう。
次に「衛生要因」である。中小企業が比較的取り組みやすい項目としては、時間外労働の削減や、有給休暇等を取得しやすい環境づくりが挙げられる。中小企業白書2025年版に掲載されている「人材確保に効果があった働き方改善の取組」では、「有給休暇・育児休業などの休暇を取得しやすい環境づくり」が最も多く挙げられている。業務の運用体制を見直し、従業員が休暇を取りやすい環境を整えることは、不満足要因を軽減する有効な手法であるといえる。
さて、これまで全4回にわたり、中小企業こそが人的資本経営に取り組むべき理由と、着手の方向性について述べてきた。採用担当者には常々伝えていることであるが、人口減少が進む日本において、採用は年々難しさを増している。しかし、今後を見据えれば、むしろ今こそが最も人材を採用しやすいタイミングであるともいえる。早期に人が集まる組織をつくるためにも、中小企業こそ速やかに人的資本経営へ着手すべきであると提言したい。
【清野 裕樹】




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