『長期化するwithコロナに立ち向かう』第1回
~私たちの「社会の変化」から読み解く~
前文
(執筆:宮原崇)
武漢市で発生した新型コロナウィルスは、2020年に世界中で猛威をふるい、またたくまに世界中の人々の生活を一変させました。
やがて新型コロナウィルスの流行は落ち着きを見せて、人々の生活は元の姿に戻るところもあるでしょうが、コロナ禍以前の姿には戻らず、変化したままのところもあったり、変化が加速するところもあったりすると考えています。
同期会「令一会」では、アフターコロナ討議チームを立ち上げ、変化する姿に着目して、これまでとは異なる軌道の先にある未来の作り方を検討しました。
令一会有志、アフターコロナ討議チームのメンバーは、以下の8名です(50音順)
上原航平、小川直樹、高木富士夫、中嶋宣行、福田幸俊、升田覚、増田竜雄、宮原崇
その討議の内容をレポートにまとめさせていただきましたので、今回より、3回にわたってこの場を借りて、ご報告をさせていただきます。第1回目は、社会の変化について、第2回目は、中小企業に起きる変化について、最終回は、ホテル・旅館業と飲食業に焦点を合わせて伝えさせていただきます。
(1)人類が闘ってきた危機から考える
(執筆:髙木富士夫)
①正しく恐れる
コロナウィルスによる感染症が世界で猖獗を極めています。フランスのマクロン大統領は「コロナとの闘いは戦争である」とフランス国民の団結と自制を促しました。世界中の人々が感染の恐怖に震え、国・街・自宅等のあらゆる扉を閉ざして逼塞しているようです。この感染症の脅威を過去のペスト、スペイン風邪に比し、経済収縮を大恐慌やリーマン・ショックに例えることも多いようです。
コロナ感染症が蔓延し始めたころ、巷間良く言われた「正しく恐れる」ことが今ほど重要な時はありません。戦争に比して危機感を高めることは政治的には意味があっても、人的損失を冷静に見れば、国によっては数百万人から一千万人以上の死者が出た第2次世界大戦とは比べるべくもありません。
また感染症の正体が科学的に解明されていなかったヨーロッパの中世や、免疫学や遺伝子学の水準が今とはかけ離れていた戦前とを単純に比較することも賢明ではありません。少なくとも現在はコロナ感染症の原因ははっきりしており、その病理と治療法・予防法が確立されていない段階です。天然痘、結核を種痘、ストレプトマイシン、BCGワクチンで抑え込んできた人類の叡智は期待に足るものです。
②コロナ禍に私たちができること
長い時間をかけて人類が獲得した人・物の移動の自由が奪われる影響は破壊的です。この点がリーマン・ショックの時とは決定的に違います。信用創造を逆回しするような信用破綻の連鎖が膨張した金融経済を収縮させたリーマン・ショックは深刻ではあったものの、実体経済の人や物の移動を直接止めることはありませんでした。
とは言え、実体経済に壊滅的な打撃を与え多くの人命を奪った大戦で、国土が戦場となり、あるいは戦後は分断された国でさえ、現在はGDPで世界の2位・3位・4位を占めるようになっています。コロナによる実体経済停滞からの回復は、戦争の時よりは勿論のこと、リーマン・ショックの時よりも早くなる可能性も大きいと言えないでしょうか。
私たち個人は、手洗いを励行し、人との接触をできる限り避け、外出も控える程度のことしか当面できませんが、そのような生活パターンに対応する社会インフラも急速に整いつつあり、「ニューノーマル」の足音は徐々にそして確実に高まって来ています。テレワーク、ネットショッピング、キャッシュレス決済、遠隔教育、ハンコの廃止、官公庁業務のシステム化など社会全体のIT化も雪崩を打つように進んでいます。
どの位の期間でコロナ感染症の治療法・予防法が確立されるのかは予断を許しません。今後もコロナ感染者の増減や局地的な感染拡大が見られることもあるでしょう。「正しく恐れ」、災禍を福となすために我々自身の忍耐と柔軟性がこれほど問われている時機はありません。
(2)日本特有の産業構造から考える
(執筆:髙木富士夫)
①コロナ禍の影響の大きな業種
コロナ感染症拡大の影響で経営困難に陥る企業が多くなっています。業種を見ると、特に人の移動が止まることによる影響を強く受ける宿泊業、飲食業、旅行・観光業、イベント業などです。航空・自動車関連も同様の影響を受けていますが、企業規模が違うためか国策的な大型融資等の話はあっても、今日・明日の金に困るという悲鳴は聞こえてきません。勿論、航空・自動車業界でも規模の小さい下請企業は同様の資金難に苦しんでいるであろうことは想像に難くありません。
中小企業白書の数字を見ても、宿泊業・飲食サービス業の中小企業数は小売業に次いで多く、50万以上となっています。その内、8割以上は従業員20人以下の小規模事業者ですから、売上が急減し日銭が入らなくなると持ちこたえるのが体力的に難しくなります。
②考えるべきは労働生産性の低さ
これらの業種の苦境を補助金・助成金、融資、給付金等の制度を活用して何とか救わなければならないのは喫緊の課題として当然のことです。但し、ここで我々が長期的な視点で考えなければならないこともあります。それは日本における中小企業の数の多さと、労働生産性の低さです。
日本は戦後の人口増加と経済成長を背景に、中小企業の支援策を進めてきました。増加する労働人口の受け皿として中小企業が果たした役割は大きなものがあります。企業数の伸び率が労働人口の伸び率を上回る状態が長く続きました。この結果一企業当たりの従業員数は低下の一途を辿りました。
人口ボーナスが、出生率の低下とともに人口オーナスに転換したにも関わらず、中小企業であることによって享受できる政策には大きな変化がありませんでした。見方によっては小規模であり続けることにメリットがあったのです。近年は、単に優遇するだけでなく、事業承継や廃業を円滑に進め、経営力を強化して真に生産性の高い中小企業を育てようとする政策が重みを増しています。
コロナ感染症が、これらの動きに与える影響は少なくありません。経営体質の脆弱な中小企業が淘汰され、合従連衡や事業インフラの改革などが飛躍的に進む画期となる可能性を秘めています。
(3)生活者の生き方・働き方の変化から考える
(執筆:増田竜雄)
①変わらない生活者の営み
ここからは、生活者の視点で考えていきます。このコロナ禍を乗り越えても、本質的に「お金を払って何かを手に入れる」ことと「自分の知力・労力・時間の対価・成果でお金をもらう」ことは変わらないでしょう。経済の営みそのものだからです。しかし、私たちがこの数カ月に体験したことで、その考え方や方法的なことが大きく変わっていくはずです。そして、生活者の変化は、そのまま企業にとってのビジネスチャンスになりえることなのです。
②加速する生活者の変化
まずは、ここ数年で出現した変化が加速されることが考えられます。小売店のレジ会計時に現金の受け渡しが敬遠されキャッシュレス化は進むでしょうし、人を介さず、モノにも触れないで買い物ができるeコマースも拡大するでしょう。
集団から個人への意識の変化の下、ひとつの会社に縛られることをリスクととらえ、副業・複業の考え方が広まるでしょう。そして、人のため、社会のため、地球のため、環境や子孫に貢献することに使いたいという思いが、SDGsの実践を加速させるでしょう。また、自分の空き時間の切り売りがウーバーイーツのようなマッチングの仕組みでより可能となり、ご近所間の身近な助け合い機能なども進むでしょう。
これらの変化は、消費する行為そのものを変化させる力があるかもしれません。「所有・消費」から「共有・使用」への行動の変化が、サブスクリプションモデルが多くの分野で普及するでしょう。
③私たちがポジティブに感じる新しい生活者の変化
加速する社会の変化の中で、私たちがプラスにとらえるべき新しい生活の変化は、テレワークの普及です。これにより生活者の時間と空間の価値観が一気に変わりました。
人と会わなくてもオンラインで会議や商談ができてしまうことに気づいた私たちは、通勤等の移動や時間調整をなくそうとするでしょう。そして、会社での就業形態にテレワークという方法が加わり、私たち生活者が自由に使える時間が増えます。増えた時間を私たちは自分のために有効に使おうとするはずです。家族や仲間同士で過ごすため、自己投資で関心事を学ぶため、趣味や健康、リラックスのため、増えた時間を使うことでしょう。
また、どこにいても人とつながることができるのですから、わざわざ都心部に住まなくても、わざわざ駅近に住まなくても、わざわざ利便性のために高いコストをかけなくてもよいと思うでしょう。都心から離れた自然環境の良い地方への移住や多くの人と触れ合える多拠点生活・移動生活をする人も出てくるでしょう。日常と非日常の垣根がなくなって、リゾートワークなど働くために旅行に行ったり、職場でも自宅でもない新たなワーキングスペースを求めたりするでしょう。
④私たちがネガティブに感じる生活者の変化
生活の中でネガティブに変化することも起きるでしょう。ウィルス感染への恐れから過度な予防意識が生まれるでしょうし、あってはならないことですが、感染することへの差別意識や罪悪感を持つ人も現れるでしょう。また、自分さえよければよい、買い占め消費も頻繁に起こるかもしれません。
キーワーカーと呼ばれる医療や福祉の現場の末端を支える仕事に従事する人たちの仕事疲れや働く意欲が落ちることで自主的な退職者が増えるかもしれません。そうした仕事には就きたくないという仕事の選別や蔑視が起こるかもしれません。失業者が増えているにもかかわらず、産業によって人手不足が一層顕著になることもあるでしょう。
ここまでは、私たちの社会における変化を述べてきました。次回は、こうした変化に対して、中小企業が対応すべきこととその具体的な方向性についてまとめました。
以上
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