強みレポート

「組織の不正を防ぐ」のコンサルティング
~ 心理的安全性を向上させて、組織を成長させる方法 ~

筆者紹介
三橋利彦(みつはしとしひこ)
2020年5月中小企業診断士登録(登録番号420430)、同年7月神奈川県中小企業診断協会入会。1990年 事務機器メーカーに入社以来、技術者として技術開発・設計部門に所属。2023年 事務機器メーカーを退職し、技術系派遣社員として勤務中

メールアドレス:toshihiko.mitsuhashi.4n@gmail.com

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https://youtu.be/-7mUjCCRK5s

はじめに 

 私は1990年に事務機器メーカーに技術者として入社し、2023年に退職しました。その間、マネジメント役割となることはありませんでしたが、労働組合の支部執行委員としても活動してきました。勤務する会社と労働組合の間で結ばれる労働協約には、「会社を発展させる」「人を大切にする」の文言が入っていました。組合員は権利を主張するだけでなく、会社を発展させるために、今この瞬間に何が必要なのかを考える風土が、労働組合にはありました。そんな労働組合活動のなかで知ったのが「心理的安全性」でした。
今回は、心理的安全性の観点から「働きやすい」「働きがいのある」「生産性の高い」良い職場には何が必要かを考え、そんな職場に成長させるための方法を伝えたいと思います。

最近の企業不祥事

 企業の不祥事が新聞紙面やテレビ報道番組を賑わせています。ご存じの方も多いかとも思いますが、某自動車メーカーで発覚した認証申請における不正行為を例に挙げていきます。第三者委員会による調査報告書によれば、不正行為の類型を、以下の表にまとめています。

NO.
不正行為の類型
内容
不正加工・調整
試験実施担当者が、意図的に、車両や実験装置に不正な加工・調整等を行う行為
虚偽記載
試験成績書作成者等が、実験報告書から試験成績書への不正確な転機を行うなどして、意図的に、虚偽の情報が規制された試験成績書を用いて認証申請を行う行為
元データ不正操作
試験実施担当者が、試験データをねつ造、流用又は改ざんするなどして、意図的に、実験報告書等に虚偽の情報を記載する行為
これら不正行為が発生した直接的な原因及びその背景は、①過度にタイトで硬直的な開発スケジュールによる極度のプレッシャー、②現場任せで管理職が関与しない体制、③ブラックボックス化した職場環境(チェック体制の不備等)、④法規の不十分な理解、⑤現場の担当者のコンプライアンス意識の希薄化/認証試験の軽視、であるとされています。

問題の真因は、①不正対応の措置を講ずることなく短期開発を推進した経営の問題、②開発部門の組織風土の問題であるとしています。

組織風土の問題として、
ü 現場と管理職の縦方向の乖離に加え、部門間の横の連携やコミュニケーションが同様に不足していること
ü 「できて当たり前」の発想が強く、何か失敗があった場合には、部署や担当者に対する激しい叱責や非難が見られること
ü 全体的に人員不足の状態にあり、各従業員に余裕がなく自分の目の前の仕事をこなすことに精一杯であること
としています。

さらに、再発防止策の提言のなかで、組織風土の改善として、①職場のコミュニケーション促進と人材開発の強化を挙げています。『管理職が現場に赴いて従業員の悩みを直接的に聞く機会やキャリアプランの相談を受けるような1対1の面談の機会をつくるなど現場と管理職のコミュニケーションを促進する施策を実施すべきである。』としています。

まさに、組織が不正に手を染めることになった原因は、組織に正常なコミュニケーションが不足していたことだと断言しています。そして、良い組織に成長させ、それを維持するには、「人と人との良好な関係」、まさに心理的安全性が必要だと言えるでしょう。

心理的安全性とは

 心理的安全性とは、『組織やチーム全体の成果に向けた、率直な意見、素朴な質問、そして違和感の指摘がいつでも、誰もが気兼ねなく言えること』です。組織の不正を防ぐだけでなく、組織の生産性を向上させ、「働きやすい」「働きがいのある」「生産性の高い」良い職場は、心理的安全性が高いと言われます。

 某自動車メーカーの現場は、仕事の基準は高いが心理的安全性が低い職場だったのではないでしょうか。不正行為への反対意見を出したり、認証試験の意義や目的を問い直したり確認したりといったことが、出来ていなかったのかも知れません。

心理的安全性の四つの視点

 職場の心理的安全性を評価するための因子は、①話しやすさ、②助け合い、③挑戦、④新奇歓迎 の4つとなります。「言い難いけど仕事を進める上で大切なこと、不都合だけど必要な真実が発言され共有されているか歓迎されている」、「知らないことをメンバー・後輩に率直に聞き、フラットに助けを求めることができる」、「結果にかかわらず挑戦したことが歓迎されている」、「一人ひとりの強みや個性、新しい視点や発想を受け入れられる」、という意味になります。これらは、株式会社ZENTechによって開発されたサーベイシステム「SAFETY ZONE」で計測される心理的安全性を高める因子となります。

組織を成長させる現場の取組み

 前職の労働組合では、株式会社ZENTechのサーベイシステムを利用して期間を置いて2回の調査を実施しました。1回目は組合員のみ、2回目は管理職を含めた全員の調査でした。小さい単位まで比較できるように、チーム、部門、事業部の単位で分析しました。面白いことに、同じ会社のなかでもチームや部門によって心理的安全性の評価が高い部門と低い部門にはっきりと分かれたことです。

 職場の実態を確認すると評価の高い部門は、困っているメンバーがいると直ぐにミーティングを開いてチームメンバーで問題を共有し全員で解決案を探索する風土があることがわかりました。反対に、評価の低い部門は、一人ひとりが孤立していて問題が共有されない傾向にあることがわかりました。

 職場の良し悪しを評価することは目的ではなく、「働きやすい」「働きがいのある」「生産性の高い」良い職場をつくることが目的なので、良い職場はもっとよく、悪い職場は改善を進めることが重要でした。まず、行ったことは、職場メンバーに集まってもらい、評価結果を見ながら、良い職場を目指し、①職場の実態、②職場の問題、③職場の課題を真摯に話し合ってもらうことでした。その次に、管理職と話し合いを行いより良い職場にするために施策を検討してもらいました。まさに、組織に正常なコミュニケーションが発生させ、良い組織に成長させ、それを維持するために「人と人との良好な関係」を築く活動を回していったのでした。

 活動の具体例として、①週一回の報告会のあり方を変える、②同部門内で連携できていなチーム間の情報共有、③高残業部門で従業員と管理職の話し合いの実施、などを行っていました。
① 部下からの報告と上司からの指示という一方向の形式になりがちな報告会を、問題をチーム全体で共有して話し合う場に変えるというものでした。知見のあるチームメンバーや管理職を含めて問題解決を行うことで、担当者を孤立させることを無くそうというものでした。
② 部門の評価は高かったものの、チーム間で評価のバラツキがあった職場で行われたもので、チーム間連携を促す目的で、部門内で各チームの業務内容を共有する場を部門長が主催するというものでした。
③ 高残業の職場では、部下上司間のコミュニケーションがそもそも不足していることを考慮して、小さい単位でチーム内の管理職/組合員で働き方の実態と担当者が疲弊している状況を共有することから始めようというものでした。

 活動実施で即解決というものではありませんが、正常なコミュニケーションを発生させることで、不都合な真実の共有と一方的な指示でなく問題解決に向けた話し合いが始まり、職場がより良くなっていくのを感じたのでした。

おわりに

 経営者が率先垂範して会社の生産性を上げることは重要なことです。しかし、会社が大きくなった場合、経営者が細部を確認しながら生産性を上げることは、難しくなります。会社を大きくする成長させるためには、従業員が自ら細部に目を配り現場を改善していく組織が必要になります。従業員一人ひとりが自覚を持ち会社を成長させることに意義を感じることが重要です。
心理的安全性の4つの因子で会社を評価し、従業員と効果的なコミュニケーションを密にすることで、組織開発を行い、会社を成長させるためのコンサルティングができます。

 会社や職場によって状況は千差万別です。従業員全体の底上げを狙った組織開発は、現場の状況に沿った解決策が必要になります。従業員に自覚を持たせ、生産性の高い組織をつくっていきたいと考えている経営者に「心理的安全性」の効果を伝えていきたいと考えています。



以上
参考文献
(出所) 第三者委員会による調査報告書 https://www.daihatsu.com/jp/news/2023/20231220-1.html
(出所) 株式会社ZENtech https://zentech.jp
(出所) 心理的安全性のつくりかた 石井僚介 日本能率協会マネジメントセンター
(出所) 最高のチームはみんな使っている心理的安全性をつくる言葉55 原田将嗣 飛鳥新社

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