インボイスの導入準備を進めよう 

これから必要とされる新しいテーマに早く取り組む理由

強みレポート
筆者紹介
村上知也(ムラカミトモヤ)、川崎市在住。
株式会社にぎわい研究所 代表取締役
2008年度診断士資格取得、2010年に独立、2017年度神奈川県入会
IT企業に13年間勤務し、ITコンサルタントとして活躍。企業のIT化支援や、ホームページ、SNS活用といったWebマーケティング分野を得意としています。特に、小規模事業者向けに「なるべくお金をかけずに行う」集客や、「非対面型ビジネスモデルへの転換」に伴うIT活用の支援に取り組んでいます。

1

独立診断士としての執筆は営業活動の良いきっかけに 

 本記事ではインボイスについて取り挙げますが、私は以前から執筆活動が診断士としての良い営業活動になると感じています。独立した直後には、自分の強みって何だろうか?というのに悩みました。やはり過去の職歴から言ってITだろうなあ、と考えつつもそれだけでは自身の特徴をアピールしづらいかと心配していました。

 そんな時、消費税の軽減税率について執筆をする機会がありました。消費税のテーマではありますが、軽減税率導入の際にはPOSや会計システムへの影響が大きく、非常にITに関連する分野でした。軽減税率導入前の早いタイミングで執筆をしたことから、このテーマでセミナに多数呼ばれるようになり、自身にとっては非常に有効な経験でした。

 これ以来、味をしめて中小企業施策の中でITに関するものには積極的に取り組んでいます。特に早い時期に該当テーマで執筆をすることで、その分野が得意であることを多くの人に伝えられました。

 今までに取り組んできたテーマは、マイナンバーカード制度、IT導入補助金、キャッシュレス、電子帳簿保存法の改正などです。どれもITに関連するものであり、それぞれ多くのセミナ実施の機会につながりました。本稿でインボイスを取り挙げるのも、制度開始まで2年を切っており、今のうちに記事を書いておけば、仕事につながるかも、という期待のためです。

インボイス制度の概要

 2023年10月1日から導入されるインボイス制度では、請求書や領収書の必須項目として、「消費税額」と、「登録番号」が追記されます。書式の変更だけ考えると影響は大きくないでしょう。

 しかし実際は、“登録番号”の記載には大きな意味があります。この番号を取得しない事業者は企業間取引(BtoB取り引き)が減少する可能性が出てきます。登録番号は消費税を納税している事業者しか取得できません。つまり税込売上が年間1,000万円以下の免税事業者は、そのままでは登録番号を取得できず、インボイスの発行はできません。

 インボイスの登録番号が記載されていない請求書を受け取った企業(発注主)は、消費税の仕入税額控除を受けることができません。すなわち、消費税の納税額が増えることになります。発注主は同じ金額の発注なら、インボイスを発行できる事業者を優先するでしょう。そのためインボイスが発行できないと企業間(BtoB)取引から排除される可能性が高いです。

 インボイスを発行できる課税事業者同士ならこれを防げます。結果として年間売上1,000万円以下でも、消費税の課税事業者になることを選択せざるを得ない事業者が増えるでしょう。

では、インボイスはどのような事業者に影響するのでしょうか? 図表にあるような、フリーランスや小規模で事業展開している業種は要注意です。免税事業者だけの問題ではなく、免税事業者に発注する本則課税事業者も影響を受けます。
2

発注側・受注側のそれぞれの影響

 もう少し詳しく見ると、業種問わずインボイスの影響を受けない事業者は簡易課税の事業者となります。簡易課税の事業者は、例え免税事業者に発注したとしても、みなし仕入率が決められているため、個別の取引による仕入税額控除を計算しないためです。そうすると影響があるのは図表の(1)(2)ですので順に見ていきましょう。
3
(1)発注側〜本則課税事業者が免税事業者に発注する場合
本則課税事業者が免税事業者に発注して、インボイスがもらえないと自社の納税額が増えることになります。対策としては以下の3つが考えられます。

① 納税資金を確保できる売上を目指す
 仕入税額控除が受けられなくなる場合に増加する税額を予想して、その分の納税資金を稼げる企業になることが考えられます。ただ取引先が納税していない分、当社がより稼がないといけないというのは、なんとも納得がいきません。この対策を選ぶ事業者は少ないでしょう。

② 取引先に課税事業者になるように促す
 そうすると免税事業者である取引先へ課税事業者になることを促すことが考えられます。ただし、優越的地位の濫用にならないように注意しなければなりません。

③ 取引先の状況を確認して対応を検討する
 現実的には、早いタイミングで、取引先に、「2023年10月1日からインボイス発行は可能ですか?」と確認するのがよいでしょう。登録番号取得後であれば「御社の課税事業者の登録番号を教えてください」と聞いて、国税庁のWebサイトで検索し、仕入先が免税事業者かどうか確認できます。いずれにしても、取引条件も含めて交渉する際には必ず経緯を記録しておき、下請法の罰則対象にならないように気をつけましょう。しかし貴重な取引先、発注先を失ってしまう恐れもあります。早めに取引先の状況を確認し、社内で対応を協議しましょう。

(2)受注側〜免税事業者が本則課税の事業者から受注する場合
 取引先が本則課税事業者の場合は、受注が減少する可能性があります。発注元が本則課税事業者の場合は、免税事業者からの仕入税額は税額控除の対象にならないためです。そのため取引を打ち切られるか、控除される消費税分を減額した受注額を提示される恐れがあります。対策としては以下の3つが考えられます。

① 発注先から消費税分をもらわない
 免税事業者であることを伝え、消費税分をもらわないと伝えて取引継続を交渉する事も考えられます。しかし、①を選択するメリットは全く無いでしょう。
(例)550万円の売上だった免税事業者の売上が500万になる。     ➡︎ -50万円

② 売り上げはそのままで課税事業者になる
 売上高が1,000万円以下のままでも、課税事業者登録をするとインボイスを発行できます。ただし、支払う消費税額の分だけ現金と利益は減少します。しかし簡易課税を選択することで、みなし仕入率が適用されるので①の場合よりは利益を残すことができます。
(例)550万円の売上だった免税事業者(サービス業)の場合、売上は550万円を維持でき、簡易課税(みなし仕入率50%)を選択して、25万円の消費税納税を行う。 ➡︎ −25万円

③ 売り上げを伸ばして課税事業者になる
 今まで以上の利益を確保するためには、売上を伸ばして1,000万円を超える事業者になり、インボイスを発行するしかありません。「1,000万円を超えると消費税を税務署に納めなければならなくなるから」と売上増をためらう事業者もいましたが、これからは「払うべきものは払って成長する」という視点を持たねばなりません。
4

インボイス制度への診断士の取り組み

 2023年10月に消費税率が上がるわけではありません。消費者にとってはインボイス制度の影響がありませんので、大きな関心は持たれないでしょう。しかし事業者にとっては大きなインパクトがあります。免税事業者がインボイスを発行できる課税事業者にならざるを得ないとしたら、間違いなく利益は減少します。ただでさえ現状が苦しい小規模事業者は更に苦しくなるでしょう。

 対策として考えられるのは、“1,000万円の壁”を恐れず、売上・利益とも成長を図っていくことしかありません。残された期間は長くありません。改めて自社事業の現状を見える化したうえで、目標利益や売上高を含めた事業計画を立案していくことが求められます。

 一方で、本則課税の事業者も安穏としていられません。取引先が課税事業者かどうか確認をして、もし免税事業者でインボイスを発行できないなら、その事業者と取引を継続していくのかを判断し、継続するなら取引先を啓蒙していくことが求められます。

 中小企業診断士としては、早い時期から事業者に対して、インボイス制度の概要と対策をお伝えし、支援していく必要があるでしょう。また自分自身がインボイスを発行できないと、どうなってしまうのかも考えておく必要があるでしょう。

以上
【アンケート】
下記アンケートへの回答をお願いいたします。
https://forms.gle/gHVSghC3v5PvQ7J96

その他最新の投稿

20分でホームページが作れます!

中小企業経営において、常に上位に挙がる重要課題…それは「販路拡大」。特に最近では対面での営業活動が大幅に制限され、デジタ …
20分でホームページが作れます!

令和3年度補正予算案が11/26に閣議決定し、臨時国会で審議が進められています

令和3年度補正予算案が11/26に閣議決定し、臨時国会で審議が進められています
令和3年度補正予算案が11/26に閣議決定し、臨時国会で審議が進められています。今回の補正予算でも、「ものづくり補助金」 …

テクヨコ2022に出展します

私は、金融機関で勤務をする中小企業診断士です。 最近読んだ米国の大手運用会社カーライルが作成したレポートによれば、米国で …
テクヨコ2022に出展します
facebook twitter 
Email Marketing Powered by MailPoet