ベンチャー投資について
~ベンチャー投資の実態と診断士ができること~

強みレポート
筆者紹介
杉浦有一(すぎうら ゆういち)
令和4年神奈川県中小企業診断協会登録
銀行で22年間、為替ディーリング等の金融市場取引に   携わった後、10年間にわたり系列のベンチャーキャピタルでベンチャー企業育成支援を担当。
2022年7月、杉浦中小企業診断士事務所を開設。
メールアドレス:yuichisugiura88@gmail.com
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はじめに 

 私は1980年に都市銀行に入行後、2004年から10年間、系列のベンチャーキャピタルに在籍、ベンチャー投資を通じて、数多くのベンチャー経営者の方々と接して参りました。そのなかで、株式市場上場(IPO)を果たせるベンチャーはまさに千三つの世界であり、いかにベンチャーで成功することが難しいかを実感致しました。
ここでは、ベンチャー投資の実態と、診断士として何ができるのかを整理し、ご紹介させて頂きたいと思います。

ベンチャー投資の実態(投資決定プロセス・投資判断基準)

ベンチャー投資とは、未公開企業等の株式を投資対象とし、経営への関与等により企業価値を高めた後、株式公開か売却(M&A等)により利益を獲得する形態です。
投資決定プロセスは、①案件のファインディング(発掘)、②案件のスクリーニング(審査・選考)、③案件のデューデリエンス(適正評価)、④投資条件の交渉(投資株価等)の4段階となります。実際の投資判断基準は、以下のようになります。
① エンドユーザーのニーズ(将来的に使われるか)
② 製品・サービスの優位性と販売力(良い物だけでは駄目、経営者の陥る罠)
③ 参入障壁が高いビジネスモデル(先行逃げ切りでいけるか)
④ 社長の経営力(求心力、マネジメント力等)
⑤ 潜在市場規模(これからの市場はどうか)
⑥ コスト競争力と収益モデル(コスト変動要因に耐えうるモデルか)
⑦ 適正な資本政策(必要資金確保に無理はないか)
⑧ 最悪のケースへの備え(リスク把握能力の有無)

うまくいかないベンチャー企業の共通点

 IPOだけが成功と言える訳では決してないですが、多くのベンチャー企業は志し半ばにして経営不振に陥るケースが多く、そこにはいくつかの以下のような共通点があるように思われます。
① 想定された顧客ニーズの読み違い
② 資金繰り管理の甘い会社
③ 社長が営業に出ない会社
④ 大企業と競合する市場での勝負
⑤ 事業への粘り強さがなく、経営に対する熱意と誠実さのない経営陣

ベンチャー企業への中小企業診断士の役割

 ベンチャーキャピタル等から資金を得たベンチャー企業でも、その大半は前途多難な経営状況が続きます。その中で、ベンチャー企業を支援する立場になった中小企業診断士は、顧客ニーズを常時ブラッシュアップ、営業先の斡旋、資金繰り管理のアドバイス、市場動向の情報収集等を通じ、ベンチャー企業支援ができるものと考えます。

おわりに

 投資を検討する上で、数多くのベンチャー経営者の方からプレゼンを受けました。
中には、完璧なプレゼンもありましたが、あまりにも上手すぎるプレゼンに違和感を感じたこともあり、その経営者は後に詐欺行為で市場から退場させられてしまいました。プレゼンは上手いに越したことはありませんが、たとえプレゼンが朴訥なものであっても、その経営者が誇りとする事業に対し、まずは正直に真摯に取り組んでいるかという姿勢を評価して、ベンチャー企業経営者の方々とお付き合いすることが肝要と実感しております。

以上

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