中国ビジネスあれこれ
~あくまで私が経験してきた事ですが~

強みレポート
筆者紹介
矢野 惠一(やの けいいち)、2024年資格取得、同年神奈川県及び東京都の協会に入会。34年間、総合商社の繊維本部で衣料品取引に従事。在職中、合計17年間、中国各地に駐在。従業員3,000名のセーター工場の社長も歴任。56歳で独立、小規模事業を立上げ、「中国の商品を日本へ、日本の商品を中国へ」と販路開拓支援を行う。昨年、65歳にして中小企業診断士としての活動を開始。
メールアドレス:keiichi.yano@ozzio.jp

はじめに

 私は商社在職中、及びその後、独立してからも一貫して中国企業との取引を行っており、中国の方とのビジネス経験は既に40年以上となります。今後、どの様な形であれ「中国ビジネス支援」を行ってみたいと言う方にとり、何かしら参考になれば幸甚に存じます。とは言え、私にとって中国ビジネスは空気の様なもの、「これは!」と言うエピソードが思い浮かびません。と言う訳で思いつくままに書き連ねてみます。

1.技術指導ではない、技術交流

 2010年代初頭、中国メーカーと機能性肌着を共同開発し、その生産を委託しました(私は生産委託・仕入側の責任者)。日本で開発された技術でしたが、その当時、既に日本国内には大量生産を行える工場が無く、中国に技術を移し生産を委託しました。しかし日本の技術者は経験も知見もある為、中国の技術者に対し「上からモノを言う」事が目立ちました。当然、中国側は猛反発、生産現場は混乱です。私は双方の技術者を呼んで打合せを実施、日本の技術者には予め因果を含め打合せの場で謝罪して貰い、且つ根幹部分は伝授するも、具体的な運用は中国側に任せる事とさせました。

 最終的には日本の技術者も思い付かなかった中国側の創意工夫もあり、想定以上の生産性を達成できました。勿論、可能な限りではありますが、相手の「やり方」を尊重し「任せる」事の重要性を認識しました。中国では海外技術の導入に際し「技術指導」ではなく「技術交流」と言う言葉を使います。相手の立場やプライドを慮る事はとても大切です。

2.経営者との付き合い方

 中国の民間企業は日本の中小企業の様に経営者に権限が集中している場合が多くあります。その為、経営者とのお付き合いはとても重要です。

 前述の例では、事前に中国メーカーの経営者にこのプロジェクトが成功した際の3ヵ年売上高予想、及び競合他社に対する優位性を説明し、経営者の納得を得て、予め部下である技術者を説得しておいて貰いました。経営者から信頼を得る事、これも大変重要です。

 次は別の例です。2020年頃、中国のジーンズ生地メーカーと同社の特許素材を日本の大手小売店に売込みました(私は同社の営業顧問、販売代理)。このメーカーの社長は技術者で特許も多数有しています。しかし顧客に頼まれると「安請け合い」をしてしまう事も少なくありませんでした。その為、現場は大混乱、現場の責任者は困り果てて私に連絡。その都度、私はその安請け合いが引き起す損害額と顧客からの信用失墜を説明し、収益悪化を防ぐ事に尽力。最終的には周囲の信頼を得ることが出来ました。大変でしたが粘り強く交渉することの大切さを学びました。

3.部下との付き合い方

 中国の方を部下に持った際、私が気を付けていた事、感じていた事は次の通りです。
①人前で決して叱らない事。
部下を叱る時は別室で行うことが大切です。大勢の前で叱ってしまうと、部下は辱められたと思い、反省や改善に繋がらない可能性があります。

②忖度を期待しない事。
上司がまだいるから帰れない…なんて言う事は起こりません。ベルが鳴ったらさっさと帰ります。どうしても終業後に部下との打合せが必要な場合、事前に調整する事をオススメします。

③チームワークは具体的に指示する。
チームで仕事を行わせる場合、チーム全員を呼び具体的にリーダーを指名し「この場にいる全員で協力する様に」とする事が円滑な仕事の第一歩です。自然発生的なチームワークを期待するよりも、ご自身の意思をしっかり伝える事が大切です。

4.まとめ

 中国の方だけではなく、外国の方とのビジネスでは「自分とは違う」と言う事を常に意識することが大切です。文化も環境も異なる訳ですので、自ずと考え方、行動様式も異なります。且つ、多くの場合、「日本式」の方が少数派です。「私たちは世界標準ではない」と言う事を常に頭の片隅に置いておいた方が良いかも知れません。

 勿論、ご自身の意見を持つ事は重要ですが、同時に相手の立場や考えを尊重する事も同じくらい重要です。「あれ?何かマズイな」と感じられたら、問題が大きくなる前に、粘り強く話し合い、とことん議論してみては如何でしょうか。

少しでも参考になれば幸いです。最後までお読み頂き、本当にありがとうございました。
以上

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