JICA専門家としての体験談(その3)
~カイゼンについて~

強みレポート
筆者紹介
玉井 政彦(たまい まさひこ)
診断士資格登録:1998年(平成10年)4月
神奈川県診断協会入会:2023年(令和5年)9月
2000年1月よりJICA専門家の一歩を踏み出し、2018年3月まで断続的に海外中小企業経営者・管理職/大学/公的機関への講義・セミナー・講演、及び各種調査活動などに従事。
メールアドレス: m_tmi@hotmail.com

はじめに

 令和6年度メルマガ7月配信に続けてカイゼンにつき論じます。中小企業診断士の皆さんが理解されているカイゼンと同じでしょうか?

 筆者が片仮名のカイゼンを使う時、これはSmall Kaizenを指しています。Big Kaizenは、IoT、AI、ロボットなどのIT技術を駆使したイノベーションを指しています。

1回目の記事はこちらをクリックしてご覧ください

2回目の記事はこちらをクリックしてご覧ください

人の創意工夫によるカイゼンの行方?

 Big Kaizenで革新的なシステムを確立したとしても、それを維持する継続的カイゼンを行なわなければ革新的なシステム自体の効率が直ぐに低下すると筆者は考えていたので、「IT技術でカイゼンは駆逐される」との主張に疑問を持っていました。
2022年末、Open AI社のChatGPTが使えるようになったことから事態が急変するように思われました。この記事を書くに当たり、筆者はChatGPTに次の質問をしてみました。

「あなたは、人間の叡智・経験などによる継続的カイゼン活動(Small Kaizen)が、今後、全く無くなりIT技術(Big Kaizen)のみで改善がなされると考えていましょうか?」 

 ChatGPTは、結論として「IT技術がカイゼン活動に大きな影響を与えることは確かですが、Small Kaizen が全くなくなることは考えにくいです。むしろ、Small Kaizen と Big Kaizen は補完的な関係にあり、両者が共存することで最大の効果を発揮します。人間の創造力と経験に基づく継続的な改善活動は、AIやIoTと協力して、より高いレベルの改善を実現するでしょう。AIとしては、テクノロジーと人間の知識が協力し合うことで、より良い結果を生み出すと考えています。」とのご託宣でした。

 企業の業種、規模、製品・サービスを異にしても、イノベーションの効率を継続発揮させるためにヒトが継続して問題点を探し出し、知恵を働かせて解決することが必要であると、生成AIが指摘していると確信しました。IT導入補助金でIT設備・システムを導入後のアフターケア(カイゼン)が重要となる所以です。

問題とは何か?その定義は?

 総合的品質管理(TQM)では、「問題」とは何かの定義をしています。
「現状レベルとあるべき姿(目標)との差(ギャップ)」です。JICA専門家としてバーレン王国商工業省へ旅立つ前の3カ月間、TQMとカイゼンについて猛勉強したことをご紹介しましたが、この定義を知ったのは、恥ずかしながら55歳を過ぎていた当時のことです。この定義を若い頃に認識していれば、仕事のやり方も変わっていたのではないかと思ったものです。
左図は、「問題」の定義を「見える化」したものです。左側のギャップは大きく、Big Kaizenの対象となる問題で、右側のギャップは小さく、Small Kaizenの対象にしているとお考え下さい。あるべき姿は、目標ですのでどのようにして達成するかがポイントです。左側のギャップ(問題)を解決(実現)するために、Small Kaizenを継続し時間をかけて達成することも検討の余地があるとお考え下さい。

カイゼン導入を成功させる要因

 筆者がカイゼン普及をする際、重要成功要因(CSF)4つを強調していました。
トップマネジメントの改善への強いコミットメント
教育・訓練
活動の継続性
カイゼンテーマが組織目標と一致すること
 最重要なのは①です。トップが投げやりな対応をするとカイゼン活動は必ず失敗します。次に③の継続性です。JICA専門家が指導完了して帰国すると、カイゼン活動は頓挫すると言われていました。継続するには強力にリーダーシップをとる人材が必要です。②のヒトの育成が重要となります。

カイゼンの方法

 カイゼン活動を行うには、二つの方法があります。
 上図の通り、個人活動とグループ活動(小集団活動)に分けられ、個人活動の場合は、カイゼン提案シートを使い、小集団活動には、QCストーリーという定型様式で報告することになります。QC Storyは、TQMの問題解決技法を定式化したものですが、別の機会に譲ります。

カイゼンの世界的普及

 JICAが、開発途上国を中心にカイゼン普及に努めたのは、カイゼンが多額のカネをかけないで問題解決をして成果をあげるからだと思っています。筆者が2000年、バーレン王国商工業省で指導を開始した当時、インド人コンサルタントがバーレン国内でカイゼンを指導していることを知りました。今井正明氏が1986年、英文著作で<Kaizen>を世に紹介したことから国際語になっていました。日本が国際競争で優位に立てたのはKaizenの為だったと認識されたためです。
 筆者がJICA専門家としてリヤド滞在中の2017年当時、サウジアラビア電子機器・家電製品研修所(SEHAI)にて教官たちにカイゼン・セミナーを開催しました。教官のほぼ全員がカイゼンを知っているとのことでしたが、セミナー開始直後、彼ら全員が、PDCAが何かさえ知らないことが判明しました。
後日、問題解決をするためのブレーンストーミングをしたところ、先生たちがまるで生徒になったように嬉々として活動に参画したのを思い出します。
SEHAI教官へのカイゼン・セミナー

おわりに

 人手不足解消に、政府も外国人労働者の日本国内就業に緩和策を取り始めました。彼らはカイゼン・マインドを持っているのだろうか?日本国内で外国人にカイゼン・セミナーが持てればと期待しています。
以上

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