強みレポート

JICA専門家としての体験談
~海外で仕事をされたい方々へ~

筆者紹介
玉井 政彦(たまい まさひこ)
診断士資格登録:1998年(平成10年)4月
神奈川県診断協会入会:2023年(令和5年)9月
1999年10月、鉄鋼会社から子会社に転籍になるのを機会にJICA専門家(JICA Expert)としての道を選択。2000年1月より同専門家の道を踏み出す。2018年3月まで断続的にJICA専門家として海外中小企業経営者・管理職への講義、セミナー、各種調査活動などに従事。

メールアドレス: m_tmi@hotmail.com

はじめに

 診断士資格を取得し2年も経たぬ頃、JICA専門家として活動を開始しました。2000年1月、最初の指導対象国であるバーレン王国に発つとき、初めての中近東への旅立ちという不安と新しい仕事に飛び込むのだとの血沸き肉躍る気持ちが半々でした。
JICA(国際協力機構)の仕事は、自分に適したプロジェクトに応募して競合に勝ち抜き受注することになるわけですが、中小企業診断士で、海外勤務経験があり英検1級あるいはTOEIC高得点保持者であれば有利です。昨今、IT関連資格保持者は更に有利と思われます。ご関心のある方は、ご一報いただければ喜んでご質問にお答えいたします。

どうしてJICA専門家になったのか?

 某鉄鋼会社入社試験のインタビュー時、「どうして当社を受けたのか」との質問があった際、「御社に貢献し、日本経済に貢献し、ひいては世界経済に貢献したいためです」と答えました。鉄鋼会社勤務時代、留学も含めてブラジルに6年間滞在したことがありますが、日本国内よりも海外で仕事をすることが性に合っていると思っていました。鉄鋼会社の子会社に転籍となることが一つの契機となり、世界経済に貢献する機会が到来したと考え、JICA専門家の道を選択しました。

JICA専門家の初体験はバーレン王国で

 2000年1月から丸3年間、バーレン王国商工業省顧問として度量衡局職員にTQM(総合的品質管理)とISO9001導入の指導後、次官以下全職員参加による「生産性向上運動」の支援をしました。生産性向上運動開始に当たっては、局ごとに職員を小集団に分け、カイゼンの基礎学習を全員にしてもらった上で運動を実施。大きな成果を上げたグループには腕時計などの景品が大臣から授与され、テレビ、新聞で報道されました。

 付言:バ国滞在中、桐朋学園大学在学中の娘が情報省の招待でピアノリサイタルを開催できました。アメリカ大使他想定以上の来場者があり、テレビニュースで放映され新聞にも掲載されました。

「5日間品質管理基礎講座」の実施

 商工業省支援の合間に、「品質管理7つ道具」をコアとする5日間品質管理基礎講座を10回走らせ159名が受講しました。講座最終日にテストをして70点以上を取った者には次官から合格証を授与していただきました。特に38人もの受講者を派遣したASRY社(大手船舶修理会社)社長から、当講座が同社に革命を起こしたとの評価を得たことには感激しました。7つ道具は技術者でもない者が習得した技法であるが故に、努力の甲斐があったと思った次第です。
中央:大臣/右横:筆者 左側:大使と書記官
中央:大臣/右横:筆者
左側:大使と書記官

英文著作上梓

 TQMの入門書兼生産性向上運動の展開記録を英文著作として上梓しました。商工業省は午前7時が始業時間で2時半には退出するので、その後の時間帯と金曜日・土曜日の休みを利用して2巻を書き上げました。今、読み返すとJICA専門家としての仕事を開始した時期につき、稚拙な部分が見当たるものの、よくぞ書き残したものだと思っています。JICAの手により、この2巻がカザフスタンでロシア語に翻訳され発刊されました。

第2番目の国、カザフスタン

 2003年11月から2006年9月までの2年8カ月、旧都アルマティにあるカザフスタン日本センター・ビジネスコース運営管理部門長として、中小企業経営者・管理職へのビジネス関連講座提供をしました。筆者が策定したコーススケジュールをJICA本部が許諾した上で、日本から専門家を招聘するとともに、自らもTQM、経営管理、品質管理7つ道具、英文契約書の書き方、バランス・スコアカード等を講義しました。
ビジネスコース集合写真
(下段左端:筆者)
 カザフスタンは1991年にソ連邦から独立したばかりで受講者に「以前の体制と独立後の市場経済とではどちらが良いか」と質問したところ、以前の方が良かったという受講者が多かったことには驚きました。ビジネスコース運営管理部門内には、英語に堪能な2名のスタッフがいたため、ロシア語に上達しないまま帰国となりました。バーレン王国の場合も英語で用を足せるのでアラビア語は筆者の手におえない言語でした。

専門家活動を振り返る

 2000年から2006年迄、「何をしたか」を表面的に触れました。その裏面を振り返りたいと思います。バーレンでの目標(任務)は、TQMとカイゼンの支援をすることでしたが、知見がないことから関連する書物を30冊ほど買い込み理解し、教材を作成しました。石川薫の英文書籍は非常に役立ちました。これを踏まえた「日本の品質管理の史的展開」をバーレン、カザフスタンで紹介し高い評価を得ましたが自分自身が一番勉強になりました。赴任前、ISO9001とISO14001の審査員補資格を取得し、商工業省へのISO9001導入の指導に役立ちました。
商工業省に着任の挨拶をした際、凄みのある身体の大きな男たちに囲まれ、これからうまくやっていけるのかなと思ったりしたものの、翌日から品質管理7つ道具を指導し始めるや筆者を高く評価し仲間扱いをしてくれるようになり、3年間を楽しく過ごすことができました。
<熱意を持ち、やり遂げるのだとの信念を持ち挑戦して行動すれば、何事もやり遂げられる>との自己効力感を高く感じた次第です。カザフスタンでもJICA専門家としての経験があったことから楽しく仕事ができたと思っています。

皆さんに伝えたいこと

 日本国内の中小企業様にご指導をされている方々には、おこがましいのですが、専門性でリーダーシップを取り仕事を続けられる方は幸せだと思います。目標を掲げ勉強を続け、高い自己効力感を持ち続け人生を謳歌していただきたいと思います。海外にも挑戦されたく願います。

おわりに

 診断協会に加入後の今、JICA専門家ではなく国内で診断士活動していたらどうなっていただろうかと思うことがあります。2007年以降のJICA専門家活動は次の機会に譲ります。

その他最新の投稿

(連載企画)中小企業が知っておくべき組織作り 第4回

前回の連載から組織作りのキーとなる中堅社員を中心とした管理職の育成について掲載しました。会社全体のムードは現場リーダーで …
(連載企画)中小企業が知っておくべき組織作り 第4回

中小企業のBCP

中小企業のBCP
新聞社に勤務している筆者は、昨年6月、石川県と富山県を所管する北陸支社に転勤し、今年1月1日に能登半島地震に遭遇しました …

(連載企画) データ活用経営のすすめ 第4回

近年、AI技術の進化が著しく、その応用範囲は広がりを見せています。ビジネスの現場でもAIの導入が進められていますが、成功 …
(連載企画) データ活用経営のすすめ 第4回

(連載企画)零細企業への公的支援の認知と活用の促進 第4回 「認知と活用促進の提言」

最後の回は、零細企業への公的支援の認知と促進の提言をいたします。 家族の生活のため、地域のために、朝から晩まで頑張ってい …
(連載企画)零細企業への公的支援の認知と活用の促進 第4回 「認知と活用促進の提言」

観光事業プロジェクト(2)

観光事業プロジェクト(2)
公益推進部の新規事業として、昨年来進めております「観光事業プロジェクト」の活動状況をお知らせします。 本プロジェクトは、 …

令和5年度 専門道場(第2回)の報告

「新実践塾」が事例を通じて「現場力を磨く」ことを狙いとしているのに対し、「専門道場」では専門力の深掘りを目的としています …
令和5年度 専門道場(第2回)の報告
facebook twitter 
Email Marketing Powered by MailPoet